ガチャ、ドタドタドタ…
バターン!
「か、課長!ちょっと待っ」
「みんな、帰ってくれ!」
必死にしがみつくも虚しく課長は声高らかに宣告した。あ、ああ…やっぱり止められなかった!皆がポカンと七松課長を見上げる中、訝しげに潮江部長が眉を顰める。
「あ?何だいきなり」
「今日は大事な用が入ったから、帰ってくれ!」
「ああ?これからか?」
「そうだ。急を要する!」
急を要する…って。それがどう言う意味か考えてカーッと頭が熱くなる。下を向くと課長に引き摺られる様に家の中に入ったまま腕を掴まれていて、その手が意図的に握り直された気がして更に恥ずかしくなった。か、課長の手…熱い…。掴んだままでは皆が変に思うんじゃないかと空いた手の甲で頬を冷ましながら顔を上げると、いつから見られていたのか善法寺課長と目が合った。
「………ふふふ」
「!」
「…ほう」
「!!」
面白そうに笑った善法寺課長にビクリと固まると、それを見ていたらしい立花部長がニタリと笑った。ま、まさか…いやいや、分かるわけない…よね…!?
「大体小平太が言い出したんじゃねぇかよ。用って何だ」
「まぁまぁ。今日はまだ終電前だしいいんじゃない?大事な用事みたいだし。ねぇ?」
「ああ、そうだ!」
「そうだな。急を要してまで確認したい作業でもあるんだろう?」
「そうだ!」
「あれ、何だい大木。顔真っ赤にしちゃって」
「どうした大木。そんなに俯いて何かあったのか?」
「…い……いいえ…」
完全にわかってらっしゃるような気がする……!!て言うか絶対わかってる。じゃなきゃ七松課長への質問なのに私の方ニヤニヤ見ながらするわけないよね!確認したい作業って、愛の確認作業って事か。やかましいわ!恥ずかしさに顔を両手で覆うと七松課長にどうした?ときょとんとした声を掛けられた。このにぶちん!!
「じゃあほら、皆行こうか」
「飲みたい奴は勝手に次へ行け」
善法寺課長と立花部長がてきぱきと指示を出して皆が帰り支度を始める。何かやっぱり、いたたまれない…。皆が靴を履いて玄関を出て行くのをそわそわと見送っていると、最後に靴を履いた遠野さんが振り返った。あ、そう言えば…。
「あきちゃん、お家どこなの?もう暗いし家まで送っていくよ?」
「あ、いや…あの」
「どうしたの?大丈夫だよ、皆にも付いて来て貰うから」
「あ、ああー、あのー、そのー」
「ん?ほら、行こうよ」
そうだった、遠野さんはまだ知らないんだった…。事実を何と伝えるべきか言葉を選んでいると、遠野さんに腕を引かれる。
「行こう?」
「っあ…」
そのまま一歩玄関に足を下ろしそうになった所でグイッと後ろに引き戻された。強くお腹に回された腕と耳元に感じる息遣いに身体が固まる。あああ…遠野さんの目が点に!
「こら。どこに行くつもりだ」
少し拗ねた様に聞こえる声に背すじが震えそうになる。課長、もしかしなくても結構酔っぱらってるんですね!?今頃気付いたよ!いやそれより今は遠野さんが…呆然とする遠野さんと目が合う。ど、どうしよう…何て言えば…!
「あ、あの。いや、えっとこれはですね…!」
「奈津こいつは置いてけ。ここが家だ」
「あ、そうなんだ…」
課長の端的な会話に冷や汗を流していたけど遠野さんは返事をすると玄関を出てパタンと扉が閉まってしまった。あ…れ……?思ってた様なリアクションじゃなかっ
「…ええーー!?」
「奈津ちゃん、時間考えて!」
扉の向こうからそんな会話が聞こえた。
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