晩ご飯も作るのが面倒でコンビニに立ち寄ると入り口に入ってすぐのコスメコーナーで足を止める。用もないのに見ちゃうんだよねー。女の子はコスメが好きだからね。自分で女の子とか言っちゃってすいません。
「あ」
目に止まったのはリップグロスだった。思わず手に取ってまじまじと見つめる。そう言えば遠野さん、口紅付けてたな。普段は幼く見えるけど、ちゃんと似合ってた。私は精神的に大人になりきれてないから口紅をつけるのに抵抗があって成人式ぐらいでしか付けたこと無いなぁ。
「…まぁ見た目が変わっても意味ないし」
とか言いながら棚に戻そうとしない自分の手を見つめる。いやいや、買わないよ?何本人の意思に反した動きしているんだ手よ。こんな口紅付けた所で課長が私にときめいたりとかそー言うのないからね!自分ですごい泣きたくなる事考えてしまった。
「あれ…?あきちゃん?」
「あ…と、遠野さん」
私が名前を呼ぶと遠野さんはやっぱりそうだ、と安心したように笑顔を見せた。どうしてここに…もう飲み会終わったんだろうか?
「今帰りなの?残業?」
「あ、はい。遠野さんはもう飲み会終わったんです……」
何となくチラッと遠野さんの籠を見て言葉が変に途切れる。籠にはお泊まりセットのスキンケアと歯ブラシが入っていた。ま、まさか課長、遠野さんをおもちかえり…。私の視線に遠野さんが籠の中を見るとはにかんで笑った。やっぱり…。
「今ね、小平太君家で皆朝まで飲むって事になったから買い出しついでにね」
「え……あ、そ、そうなんですか…」
なんだ、皆も居るのか。よかった…。ホッとしてゆるゆると表情が崩れる。それを見た遠野さんは私が羨ましそうにしていると思ったのか両手をパンと打ってこう言った。
「そうだ!よかったらあきちゃんもおいでよ!男ばっかりだけど私もいるし!」
「あ、いや、あの、えーっと…」
「だめかな?用事ある?」
「い、いえぇ…ないんですけど、」
「あ、課長の家に行くなんて緊張する?皆オンオフ切り替えてるから大丈夫だよ」
いや……課長の家が私の家なんですけど…言えない。完全にタイミング逃してしまった。て言うかこの人も明日も仕事でも関係ないタイプなの?七松課長の周りタフすぎてこわい。何と言おうか悩んでいると隣の通路からひょこりと頭を出した人と目が合う。げっ、
「あれぇ、大木じゃないか」
「ぜ、善法寺課長…」
「善法寺君も知り合い?今ね、この子も来ない?って誘ってたんだ」
遠野さんの話に善法寺課長がきょとんと目を瞬かせて私を見た。あ、ああー…。
「ふーん、面白そうだね」
嫌な予感しかしない…!
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