「え?」

「すまん、大木!わたし、奈津がやっぱり好きだ!だから別れてくれるか!」

「ごめんね、あきちゃん」

「ええっ…ちょ、ちょっと待って下さい!」

「ははは!奈津、一緒に風呂入るぞー!やっぱり奈津と入るのが一番楽しいからなー!」

「小平太たら、もう…」



「ち、ちょっとおおおーーー!!!」



カッと目を見開くと勢いのままガバッと立ち上がった。あ、あれ…?ゆ、夢か。なんだ…。 て言うか課長と遠野さんがお風呂って…課長一緒に入るのが好きだって、言ってたもんね。あの時は元カノとかそう言う話かと思ったけど……なくはないな…。ハタ、と複数の視線を感じた。あれ?そう言えばここって…


「………」

「あ、はは…。すいませんでした…!!」


残業で残っている数名の方々が迷惑そうに私を見ていて素早く椅子に座り直した。そ、そうだった。私、残業していたんだった!


「いつの間にか寝ちゃってたんだな…」


パソコンを見ると全然進んでいない。集中出来なくて突っ伏した所からそう言えば記憶がない。画面をぼんやりと眺めながら溜め息を吐く。それから頭をゆっくりと抱えると俯いた。
……私、何であんな事言っちゃったんだろう…!



『課長なんか、きらいです』



するっと出てきた言葉に、課長は一度足を止めて振り返った。すぐに遠野さんに声を掛けられて行ってしまったけど…課長、絶対聞こえていたよね。完全に私の目見てたし…。
あんな事言うつもりなかったのに。あの二人の背中を見て、どうしようもなく悔しかった。課長が遠野さんを選んだら、きっと私は何も出来ない。だって相手にされなくてだだを捏ねる子供みたいじゃん…そんなの惨めだ。年下の私があの人に勝てる所なんて、きっとない。


「私が課長と同い年に生まれてたら…こんな悩みなかったのになぁ」


ぽつりと呟くと感情が津波みたいに襲って呑み込んでゆく。ポタッとデスクに涙が落ちて目元をごしごしと拭った。私、馬鹿だ。自分から嫌われるような事言ってしまった。もし今日、七松課長家に帰ってこなかったらどうしよう…。
あの家で一人で居る事は今まで何度もあったけど、帰ってくる課長の事を考えながら過ごす時間が好きだった。だけど今日は、一人であの広くて真っ暗な部屋に帰るのが嫌だ。帰ってくるかわからない課長を待つのも。


「…はは……なんてね。帰ろ…」


他に帰る場所なんかないし何時までも会社に居る訳にもいかないもんなぁ。何となく重く感じる足を引きずってオフィスを後にした。


 

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