「大木、今日飲んで帰るから」

「あ、はい。わかりました」


後ろから顔を覗き込んだ課長はやっぱり普段通りで何も変わらない。やっぱり七松課長の考える事って、全然わからないなぁ。
昼間は遠野さんの方がいいって言っていたのにいつもみたいに顔を近付けて笑いかけられたら、気持ちは募るばかりで無くなってはくれないのに。じっと見つめていると視線に気付いて不思議そうな顔をする。それを見て思うのは、やっぱり可愛いなぁ、好きだなぁ。私の考えている事っていつも同じ事ばかりだな。こんなんだから、飽きられちゃったのかな…。


「どうしたんだ」

「いえ…」

「?」

「七松課長、お話中すいません。大木、ちょっといいか」


声を掛けて七松課長の隣に滝先輩が立った。私に用事?一体何だろう。


「滝先輩。何ですか?」

「今日、暇なら私に付き合ってくれないか」

「え?」


心底困った表情の滝先輩に目をぱちくりさせる。本当に一体どうしたんだろう。ま、まさか残業のお手伝いでは…でも課長もきょとんとした顔で見ているしそれはないか。じゃあ何を付き合えと言うんだろう。


「いいですけど…何するんですか?」

「ああ、実は今日、飲み会があるのだが大木を連れて来いと頼まれてな。勿論都合もあるからと断ったのだが課長が飲みに行かれると聞こえたので…課長、大木を借りてもいいですか?」

「うーん。よし、いいぞ!」


一体誰だよ、私を指名したの…?いや、滝先輩の事だから女連れてこいって頼まれて、私しか選択肢なかったとかそう言う事かな。飲み会かぁ…って言うか滝先輩、どうして私じゃなくて七松課長に許可貰うんだよ。先に私に聞くべきでしょ?そして課長も許可出さない!!!私は課長のものですか!


「ありがとうございます。きちんと家に帰しますので」

「わ、私行くって言ってませんよ!」

「まー、たまにはいいんじゃないか?先輩との付き合いも大事だからなー!」


大口を開けて笑いながら背中をバシバシ叩かれてグッと言葉を詰まらせて、ゆるゆると溜め息を吐いた。まぁ、飲み会くらい行かなくもないけど…って言うか俺の物扱いされたの今頃嬉しくなってきた…くそう。私って本当に単純だ。


「お、滝ーもう終わったのか?一緒に行こうぜ」

「松野か」

「七松課長、お疲れ様っす。大木、お前も行くだろ?早く飲もうぜ!」

「…もしかして、私を呼んだのって松野さんですか?」

「おう、先輩がタメになる話を聞かせてやろう」

「えぇー…」

「はっはっは、何だ?その態度は?」

「嘘ですよ。松野さんとご一緒出来るなんて幸せだなぁ!イテテだから早く離してくらはい!」


笑顔で頬を抓られて早口で謝った。ヒリヒリする…!ムッと頬を抑えながら睨めばニコッと営業スマイルをかまされる。腹立つ…先輩だけど腹立つ!


「滝もう行けるんだろ?」

「ああ」

「じゃあ大木早くしろよー」

「えっ、あ、はい…」


気が付けば滝先輩ももう準備は整っていた。今日の分あと少しやろうと思ってたけど、待たせるのは悪いから明日に回そう。そう思って鞄を持つとその手をグイッと引っ張られる。
見ると七松課長が何を考えているのか、まん丸い目が私を見下ろしていた。


「え?」

「大木、やっぱりだめ」



 
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