ちゅどーん!
あきと留三郎が作業をしている背後で、まるで破壊光線の様な音がして土煙が舞い上がる。風があきのスカートをぶわりと膨らませていく。留三郎の視線が思わず向いてしまったのはしょうがないこと。
「食満くん、い…隕石!」
「いや、小平太の仕業だろ…」
「あっ、留三郎ー!」
興奮するあきに留三郎が冷ややかな視線を寄越すと渡り廊下を横切ってグラウンドの方から小平太が走ってやってきた。ほらな、と留三郎はあきを見たが勿論既に小平太以外見えていない様子だったので口には出さなかった。
「二人で何やってるんだ?」
「用具委員だよ。ちなみに小平太が理事長の大事にしていた盆栽コレクションを壊したせいで学校中の植木に柵をつける羽目になってるんだがな」
「へー、そうなのかー」
「おいコラ」
「な、七松く、こんちは!にちわ!」
「うん!」
真夏の太陽にも負けない眩しい笑顔で頷かれてあきはくらりと倒れそうになった。うん…!うんって…うん…!!
「お?でもあきは用具委員じゃないだろう?」
「ああ、ちょっと借りを返してもらっただけだ」
「借り?なんの?」
「あ、う、うん。体育祭の実行委員にね、どうしてもなりたかったから食満くんに付き合ってもらってね、そのお礼で…」
「何で実行委員にどうしてもなりたかったんだ?」
「そ、れは、あ、のね」
「なんで?」
じっと見つめられて口を開いたまま固まる。いつもなら嬉し失神する所だがそんな場合じゃない。まさかこんなに突っ込んで聞かれるとは思っていなかったので事実をポロリと言ってしまってあきは後悔した。いやむしろ借りがあるだのと先に言ったクラスメイトの責任ではないのだろうかと留三郎をぎこちなく見ると冷や汗をたらしたまま目を逸らされた。言い逃げ、ダメ、絶対!!!
留三郎に念を飛ばしているとそれを阻むように視界いっぱいに小平太の顔が現れる。
「あき、なんでだ?」
「っ…!あ、あああのね、それはほら食満くんともっと仲良くなれて嬉しくってねそれで用具委員会の手伝いにねぇ食満くん!!」
「あ、ああ?」
「ね!!ね!!!」
「お、おう、そうだったな」
「…ふーん」
突然振られた留三郎は眉を寄せたが、必死すぎて引きつった顔をしたあきに詰め寄られて思わず肯定した。何度も頷く二人に小平太は少し間をあけて返事をする。まるで何か考えているように。
「おい、小平太…」
「まあいーや!私、今遊んでいるから、またな!」
「バ、バイバイ…!」
にこやかに大きく手を振って去っていく後ろ姿にあきは必死で手を振り返す。何とか七松くんに近寄りたかったからです、なんてやましい理由を言わずに済んでよかったとホッとする。ふと視線を感じて隣を見ると留三郎が難しそうな顔をしていた。
「食満くん、どうしたの?」
「おい、さっきの答えでよかったのか?」
「?」
「その…違うけどな!大木が俺の事好きだって勘違いを」
「違うよ!!!!!!」
「否定速ッ」
留三郎のハートに鋭利なものが確実に刺さった気がする。思わず胸を押さえると青ざめたあきがガクガクと肩を揺する。
「ど、どこでそう言う誤解が…!?」
「思い出せ、お前はどうしても実行委員になりたかった理由に俺の名前を挙げたんだぞ。今も二人一緒に居るし。それに何かアイツ考えてそうだったし…」
「で、でも…食満くんだよ!食満くんなのに!」
「おい。俺でも涙は流せるぞ」
そんな誤解をされていたらどうしようとあきは頭を抱える。
もし七松くんから、食満くんとの仲を応援されたりしたら。
「まぁ考えすぎかもしんねぇけど…ん?小平太の奴ボール取りに来て忘れてら…あっ、大木!?」
「なっ…七松くんっ…!!!」
あきはボールを掴むと追いかけながら大声で名前を叫ぶ。既に渡り廊下の向こうになっていた後ろ姿はあきの声に気付いて足を止めた。それから振り返った小平太の顔にいつもの笑顔はない。廊下を挟んで立ち止まる。心臓が速いのは、走ったせいだけじゃない。
「あ、ボール。すまん!忘れてたな!投げてくれるかー?」
「な、七松くん…わた、し」
「ん?」
パッといつもの笑顔に戻った小平太は手を大きく広げる。だけどあきはボールを投げようとはせず小平太は不思議そうに見やった。
もし、七松くんに勘違いされたら。心臓がギュウウと締め付けられる。そうなるくらいなら、
「私は…七松くんが…っ、好きなのーーっ!!!!」
言葉と共にあきが全力でボールを投げる。留三郎との特訓が今頃奏したのかボールは弧を描いて大きく空に上がった。あきは熱くなる顔のまま真っ直ぐに小平太を見る。小平太も真剣な顔であきを見つめていた。そして口を開く。
「ああ…知っているぞ!」
言うや否や一歩後ろに足を引いた小平太は勢いを付けて飛び上がる。狙う先はあきの放ったボール。小平太はそれを勢いよく打ち返した。高速であきの横を通り過ぎたボールはそのまま校舎の雨どいに直撃しバキャッと嫌な音を立てる。
「ああっ!!小平太テメェェーー!」
「あ、すまん。ボールが上がってるとつい」
「場所考えろ場所!!」
後ろから留三郎の怒号が聴こえて小平太が頭をかいて謝っているのを呆然と見つめる少女が一人。
知っているって、あれ?私の気持ちの…え?
「ええーーーー!?」
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