休憩時間になり廊下の外が騒がしい。他のクラスが移動教室らしく、二組だったらいいなぁと開いた窓を見落としがないようにギラギラと見つめるあきは、まるで獲物を狙う猫のようであったと伊作は語る。廊下の外を通る人物が一人、ふとクラスの中を覗いた。あきと目が合い明るい笑顔を見せる。


「あ…!あっ!」


七松くんと、目が合った!時間にしてたった数秒ではあったがあきは嬉しすぎて衝動が抑えられなかった。だって目が合っただけではない。笑いかけてくれたのだ。これは夢かとあきは机に額を打ち付けた。


「ちょ、大木さん!!」

「…い、痛い!夢じゃない!」

「…はあ、よかったね」

「伊作、いつもの事だから。呆れてやるな」

「うん…そうだね」

「おーい、すごい音したけど大丈夫か?」


ガターン!ジャララずこっ、


「い、伊作!」

「な、な、七松、くん!」

「あき、おでこ赤いぞ」


後ろの扉から音を聞きつけ入ってきた小平太に、あきは机をひっくり返しながら立ち上がった。筆箱をぶちまけて伊作がそれを踏んでこける。もちろんあきにはそんな事見えていなかった。自分のおでこを指差す小平太と目が合う。今、彼が見ているのは間違いなく私だけ。この広い世界の中で私だけ。


「っ…!!」

「んおっ、倒れた」

「大木さん…気をしっかり!」

「もしかして、赤いのは熱か?」

「こ、小平太待て!」

「んー、熱はないなぁ」


ふらぁ…と倒れた所に留三郎がすかさず椅子を差し込んで座らせた。伊作の慌てた声に小平太は体調が悪いのかと手を伸ばす。留三郎の制止の声も虚しくあきのおでこにピタリとくっつけられ、反対側は自分のおでこ。カッ!あきの目が見開いてもう手遅れだとこの場の全員が悟る。


「風邪はひき始めが肝心だぞ。暖かくして寝ろよ」

「……」

「おっと、もうこんな時間か。じゃあ私移動教室だから!伊作、留三郎、またな!」

「お、おう…」


持ち前の脚力ですっ飛んで行ってしまった小平太を教室中の瞳が見送った。そしてその全てがある一点に集まる。


「……」

「おーい…」

「大木さん…?」


目を点にして動かないあきに目の前でヒラヒラと手を振ってみてもなんの反応もない。ただの屍のようだ。皆が黙って見守る中、あきは静かに顔を真っ赤に染めた。


「手、おっき…かっこすぎ、るうぅ…」

「大木さーーん!!!鼻血!!」

「た、大変だ!大木が気を失ったぞ!パンツ丸見えで!あーざす!」

「テメェら馬鹿な事言ってないで手伝え!」


 
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