窓の外を眺めながらほう、と吐息を吐くあきの視線の先にはもちろん例の人物が居る。時刻は昼休憩。そこにはボールを持って楽しそうに笑う小平太の姿があった。太陽の下に居ることがとても似合うなぁとあきは思う。普段は教室の前を通る時やクラスメイトの元へやって来る彼を数度見かけるだけだが天気のい日は昼休憩になるとここから好きなだけ見ていられる。あきはこの時間が大好きだった。
「おい、大木」
「食満君。なぁに?」
「前から気になってたんだが…小平太のどこが好きなんだ?」
「え、痛ッッ!?すすす、すす好きなんかじゃないよそそそそ!!」
「嘘だろ…」
「留三郎。大木さんは一応忍んだ恋しているつもりだから…」
突然立ち上がったあきは机で膝を強かに打ち付けた。涙目になりながら焦って力強く否定する顔は真っ赤で、言葉に信憑性は全くない。留三郎の横からこそっと耳打ちした伊作に留三郎はげんなりとした。あれで…忍んでいるつもり……だと…?
「け、食満くん」
「ああ…?」
「あのね、私の友達で七松くんの事がす、すすす…好き、って、いう子が居てね」
「ほぉ、友達が」
「うん、そう友達!その子が前に言っていたんだけどね、七松くんみたいに完璧な人は居ないって!」
「小平太が…完璧…?」
留三郎と伊作は顔を見合せた。それから校庭へ目を向ける。小平太の蹴ったボールがサッカーゴールのネットを突き破ってグラウンドの果てへ飛んでいく。あっ、ンのヤロ直すのは俺だぞ!!伊作がどうどうと留三郎を宥めていると隣からピンクのオーラが侵食してきてあきを見ればキラキラと輝く笑顔で小平太を見つめていた。
「七松くんてね、自分の気持ちに素直で裏表がなくって、困った人は放っておけないタイプだし何より話すとにこにこ笑ってくれてかっこいいし、運動は得意だけど勉強はちょっと苦手な所だってバランス取れてていいよね、あ、でも得意科目になると全然そんなでもないっていうか…一つを極めててそれもかっこいいし、ご飯を美味しそうにたくさん食べる姿なんて自分のお弁当もあげたくなっちゃうし、放課後になったら元気よく教室飛び出して部活に向かう姿なんて熱心で尊敬するし、後輩に優しくて二つ下の平くんなんていつも一緒で羨ましい…じゃなくって自分が卒業した後の事を考えて色々教えてあげてるみたいだしあっあとね美術の絵が壊滅的だってこの前皆に笑われていたんだけどあれはピカソとかそっちの才能があると思うんだよねもちろん笑われても何か皆が笑ってるからいいやって自分も笑っちゃうような所も素敵であとこの前なんてね私の日直の仕事でノートが重くてそしたらね「大木」……っ、て、ね、友達が言ってたんだよね」
「「………」」
制止の声を掛ければハッと我に返ったようにぎこちなく最後の言葉を付け足した。
「…ねぇ、その友達はさ、小平太の破壊癖はさすがに嫌だよね。だって皆あれは引いてるし」
「え?凄いよね!あの脚力!きっと並々ならぬトレーニングをしてるんだよねー、いつもは苦しそうな顔一つせずにマラソン走りまくってるけど人目のない場所で自分を痛め抜いているんだよね…はぁ、かっこいい…」
「…って友達が?」
「え、あ、そ、そうそう!!友達がね!!言ってたの!つい最近聞いたから覚えててっ!あ、あはは」
恋は盲目とはこの事を言うんだろうと、生き字引を目の前に二人は思うのだった。
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