ドッガシャ!バターん!あああごめんんん!!!
「な、な、七松くん!お、お、おは、おはよう!」
あっ、と声が聞こえたかと思ったら豪快にしてやらかしている音が教室から聞こえた。それから肩で息をしてボロボロになりながらも笑顔で現れた人物には皆想像がついていた。
「あき、おはよ!お前、また今日も転んだのか?」
「うっ、えっ!こ、転んでないよ!何にもないから!」
「そうか?気のせいか」
「そうそうっ!七松くんは、本当に、早とちりさんなんだか、…ら!」
あきはしきりに小平太の腕を見ながら、言葉の最後に一度深呼吸をしてそれからぺちり、と腕を叩いた。そうかもなぁと笑う小平太に頬を染めて笑顔を向けるあきの手は小平太の腕を触った事でカタカタと震えていた。そこまで緊張するかとため息を吐くのは二人を見守っていた伊作と留三郎。ここは三組の教室前で、小平太は二人に用事があってやって来ていた。ちなみにあきも三組である。あほの三組、なんてよく言われるがその要因の一つになっているとはあきは知らない。
「で、何の用事だよ?」
「ん?おー、そうだった!今日英和辞典忘れてしまってな、すまんが貸してくれ!」
「おー、いいぜ」
「…留三郎」
「あ?…ああ」
「あ、わ、わた…」
伊作に小突かれて留三郎が振り返ると興奮しきったあきがわなわなと口を震わせていた。顔は真っ赤で視界には小平太の事しか入っていないんだろう。留三郎は伊作が言いたい事に気付いて小平太に向くとわざとらしく咳を一つした。
「あー…悪い、俺も今日忘れたんだ」
「えー、そうなのか。伊作は?」
「ごめん。僕もうっかり忘れちゃったよ」
「そうなのかぁ。じゃあ仙蔵達に聞きに行くよ」
じゃあ、と手を上げてさっさと行こうとする小平太に二人はあきを見る。駄目だ、ヒューヒュー呼吸してるだけで動きそうにない。顔を見合わせて呆れたように笑うと伊作があきの背中をポンッと叩いた。そうすると壊れかけたおもちゃが息を吹き返したようにあきが叫んだ。
「なっ七松くん!!わたし、ある!!!」
「本当か?助かる!ありがとな!」
「き、きゅううう…!!」
小平太に笑いかけられただけで天国にも昇りそうな少女の恋を誰もが応援していた。
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