「もー!来ないで下さい!」
「わはは、鬼事は得意だ!必ず捕まえる」
「本当に七松先輩の事嫌いです!出会う前に戻りたい、わっと!」
「オブっ!」
勢いを付けて跳ね上がったあきは滝夜叉丸の頭を踏み台にして屋根の上に逃げた。べしゃり、と地面に倒れた滝夜叉丸をあきを追っていた七松小平太がつまみ上げる。
「なんだ、滝夜叉丸。女にやられるとは情けないな!今からマラソンで体力をつけてやろう!」
「ちょ、ちょっと待ってくだ、ああああき覚えていろよ!!!」
「ふん!あれだから七松先輩は嫌いなのよー!!滝ちゃんやっつけちゃって!」
「無茶言うなああぁぁぁぁ……!!!!」
「滝ちゃん、君の事は忘れない…」
「あきちゃん」
すぐに見えなくなってしまった滝夜叉丸を額に手を当てて眺めていると、下から名前を呼ばれる。視線を移してぎくりと肩が跳ねた。
「た、タカ丸さん」
「そんな所で何やってるの?すごいなぁ、僕も登ってみたいなあー」
「こんにちはさようなら」
「ちょ、ちょっと。会話のキャッチボールをしようよ!!もっとあきちゃんの事知りたいし僕の事も知って欲しいんだ!」
「そ…!あなたは自分の容姿と性格と言動をもっと把握しなさい!!私は騙されないんですから!!」
「え?うーん、どういう意味かよく分からないけど…僕は嘘ついてないよ?あ、そうだ。よかったらあきちゃんの髪切らせてよ!とびきり可愛くしてあげるから!あきちゃんは持ってるものがいいから触りたいって思ってたんだあ」
「そ、そ…!」
「あれ?どうしたの?赤くな…ぅわあっ!!?」
「あやちゃん!!」
堪えきれず赤面したあきにタカ丸が不思議そうに首を傾げると、直前までタカ丸の頭があった位置を踏鍬が飛んでいった。ベキョ、と襖に穴が空いて刺さる。へにょ、と腰を抜かしたタカ丸が涙目でそれを見つめているとすたすたと歩いてきた喜八郎がそれを抜いた。
あきが屋根から飛び降りて喜八郎に抱き付こうと両手を広げて走り寄れば空いてる手で顔面を押さえて停止させた。
「あ、あやちゃん助けてくれてありがとう」
「別に、フミ子ちゃんが手からすっぽ抜けただけだし」
「つれない所がたまんないよ!ひゅーひゅー!!」
「うるさい。うざい」
「あうっ」
ギリギリと顔を掴む手に力を込めても嫌がらない所が抱き付こうとする力を緩めないあきを喜八郎はポイッと横に放った。へたりこむタカ丸の上に着地してあきの顔が再び熱を帯びる。タカ丸が何か言う前に素早く飛び起き、呆けてこっちを見てくるタカ丸の襟元を掴んでブン!と遠心力で放り投げた。落ちた場所に穴が開いて姿が見えなくなった。
「うああぁぁあぁあぁぁぁあああ!!!?!?!」
「ふう…あっ、あやちゃん待ってよー!!」
「あき。カノ子を散歩させるから付き合ってくれ」
「あ、三木ちゃん。いいよ!」
すでに遠くを歩いていた喜八郎を追おうとしたあきを三木ヱ門が呼び止める。三木ヱ門を真ん中に並んで歩き出すと手に暖かな感触。
「?なに?」
「別に。カノ子がもっと妬きもちをしてくれるんじゃないかと…」
「なるほど。見せつけている訳だね。三木ちゃんも罪作りな男だなぁ、このこの」
「止めろ。カノ子に誤解を与えるからあんまり寄るな」
「寄るなと言われると寄りたくなるんだよね…!」
「お、おい!」
繋いだ手をぐいっと引き寄せて三木ヱ門の腕に体を寄せて絡み付けば三木ヱ門は顔を赤くしてあたふたと慌てた。おお、初な反応。何となくあきも照れた。
「そ、そんな反応しないでよ…」
「あ、阿呆!お前が勝手に…ああもういい!カノ子行こう!!」
「あっ…」
照れから怒ったようにくるりと向きを変えて行ってしまった三木ヱ門を見つめる。しかし美形の照れた顔はやはり美しかった。これは今度三木ヱ門をなだめる時に使おうとあきは思う。
「あ。あきせんぱ『チャリン!』まいど」
「うーん…ほっぺぽにぽに…ミニミニ…きり丸、あなた一生そのままで居てくれたら私養ってあげるね」
「はあ。じゃあ善法寺先輩に薬頼んでみます」
「なにそのぜんぽうじ先輩ってそんなの作れるの」
結局どんな奴だ
「ぜんぽうじせんぱーい!!永遠に成長を止める薬を下さい!!」
「…私は通りすがりの侵入者だよ。あとそんな薬はないと思うけどね」
end
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