「あやちゃんあやちゃん、今日も泥だらけだね。お風呂行こ」

「あとで一人で行く」

「遠慮せずに!一緒に行こうよ!!聞いてくれなきゃくのいちに放り込んじゃうぞ!」

「絶交する」

「う、嘘だよ…だけどそんなあやちゃんも素敵!」


何となく花でも飛んでいそうな雰囲気の二人を見ていた三木ヱ門は、同じくそれを見つめる滝夜叉丸にちらりと視線を向ける。滝夜叉丸もちょうどこちらを見ていた。


「…なぁ、前から気になっていたんだけど…あきってもしかして喜八郎の事女だと思ってないか?」

「…いやまさか」

「僕に触らないで。不愉快」

「もー本当にあやちゃんはツンツンツンツンツンなんだから!ツンデレで僕っ子って、戦闘力高すぎだよ」

「「………」」


まさか。
いや、でも確かにやたら喜八郎と湯浴みへ行きたがるし喜八郎にはペタペタと触ったりくっついたりしているし以前顔に傷を作ったらしい喜八郎を綺麗な顔に傷が残っては大変だと保健室に引きずって行ったと聞いたし…


「ほ、本当にそうなのか…?」

「よし、確かめてみよう。なぁあき」

「ん?」

「滝夜叉丸も一緒に風呂に入りたいらしいぞ!」

「お、おい待て!!」

「えーっ滝ちゃん一緒に入りたいのぉー?やだやだ不潔!助平!思春期!!」

「私は言ってないからな!!今すぐ撤回しろ!!!!」

「ムキになる所がますます怪しいよ!」


ダン!と足を踏み出して否定する滝夜叉丸にあきは喜八郎を引きずって10歩下がった。ギンッと殺意の籠った瞳で三木ヱ門を睨み付ければ涼しい顔をしてやはり、と呟いていた。


「やはりとは何だ!!!私は一緒に入りたいなどと言ってないからな!!!!」

「そっちじゃない。あきはお前との風呂は全力で拒否したろ。男に対しての普通の反応だろ」

「はっ、そうか…ではやはり……」


少し遠くなったあきと喜八郎を見る。結い上げた髪に着く土をあきがぱたぱたと払ってやれば喜八郎は鬱陶しそうに手を押し退けていた。それににこにこと頭を撫でて喜八郎がその腕を掴みぺいっと投げる。反対の手が頬っぺたをつついて喜八郎が両手であきの頬をぐよ、と伸ばして以下延々続くので略。


「教えた方がいいんじゃないか?」

「ああ、そうだな…真実を知ったあきが暴れまわるのが目に見えるが…」

「でも、あきが喜八郎から離れたら…」


二人は思う。あきは恐らく喜八郎を同じ女で忍たまに居る仲間だと思っている。だから特別好意を寄せ…もちろん同姓としての、だが…ああやって構っているのだろう。今まであの二人の異様な距離感を何とも言い難い気持ちで見つめてきた。

だがもし喜八郎が男と知ればどうだ?抜きん出てリードしていた喜八郎が横並びまで、下手をすれば滝夜叉丸と三木ヱ門より下位に落ちるかもしれない。つまりあきは可愛かった。モテモテだった。学園一美しいこの三滝木夜ヱ叉門丸の次だと認めるくらいには。


「…あき、あのな実は」

「分かった。お風呂行く」

「えっ本当に!?一緒だよ!」

「うるさいな。僕は入るから好きにすれば」

「分かった!!準備して行くから、絶対に先に戻らないでねー!!」


あっ、と止める間もなくぱぴゅんと消えたあきにすたすたと歩き出した喜八郎はこちらにやって来ると二人の前でピタリと止まった。何となく二人はたじろぐ。


「邪魔しないでね」

「じ、邪魔ってどういう…」

「あきが僕が男だって知っても逃げる気にもならないまでって事」


特別表情も変えずにそれだけ言って喜八郎はすたすたと歩いて行ってしまった。気が付けば既に見えなくてハッとした様に二人は顔を見合わす。


「き、喜八郎はあきが好きだったのか…?」

「そう言えば前にきり丸に抱き付いたあきを見てムッとしていたな…てっきり自分の玩具を貸したくない子供の様な嫉妬だと思っていたが…」

「……おい、本当に止めなくていいのか?このままじゃ喜八郎とあきが…」

「………」

「………」






「喜八郎ー!!早まるなあああ!!!」

「あきー!!!って、あっ…おい待て」

「キイイイヤアアアアア!!!!!!」

「おぅふ!!」


三木ヱ門の停止の声も届かず滝夜叉丸は浴場の扉を勢いよく開けた。そこには今前掛けを外しますと言うあきが居り、滝夜叉丸と認識…正確には喜八郎ではないと認識した瞬間あきは手近にあった何かを滝夜叉丸目掛けて投げた。ちなみに丸桶で、滝夜叉丸の自慢のすらりと高い鼻に直撃した。


「私の美しい顔が!!!!」

「だから開けるなと言ったのに…忠告を聞かない奴だ。喜八郎、お前そこで何してるんだ」


三木ヱ門の視線の先、腰丈の木に隠れていた喜八郎はガサガサと立ち上がった。


「本当に入る訳ないでしょう。そんな事して喜ぶのは尾浜先輩くらい」

「それ本人に直接言うなよ…傷付くから…」

「あっあやちゃん!滝ちゃんが覗きだよ!!どう成敗してくれようか」


服をきちんと着直したあきが出てきて顔を押さえて蹲る滝夜叉丸の背中にげしと足を乗せた。


「ふけつ」

「そう。あやちゃんもっと言ってやって!」

「げんめつ」

「も、元はと言えば喜八郎のせいだろう!?」

「あやちゃんのせいにするなんて…」

「けいべつ」

「ぐぬぬ…!!」

「滝ちゃんが悪いんだもんねーだ!もー信じらんない!暫く私に近寄らないでよね!!」

「………」

「あやちゃん?何そのピース?」


あきが喜八郎を盾にする様に背中に回り込んだのを見て喜八郎はVサインを作った。もう好きにしろ…。三木ヱ門と滝夜叉丸はがくりと肩を落とす。




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