「ええーい、離せと言ってるんですよ!!」
「やだよ!納得する理由を言ってくれなきゃ離せない!」
「何だ、何をやってるんだ」
「四年の髪結いと女の忍たまが喧嘩してるぞ」
「髪結いと女の忍たま…って」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声にギャラリーが集まって、その近くを通ろうとした滝夜叉丸は聞こえてきた会話に足を止めた。それはタカ丸とあき以外指し示さない言葉だ。
「あき!タカ丸さんも!一体何してるんだ!!」
「あっ!滝ちゃん!!!たすけてよ!」
「滝夜叉丸君、あきちゃんを逃がさないでよ!」
人混みをかき分けて現れた滝夜叉丸の背中にあきは素早く隠れる。タカ丸は困った様な表情で、見た目はボロボロだった。あきにさんざん抵抗されたらしい。とりあえず滝夜叉丸は状況からあきを背中から引き剥がしてタカ丸の前に押し出した。
「あっ!何するの薄情な!!」
「状況を見て何となくお前が悪そうだと思ったからだ」
「なにそれひどい」
「で、一体何が原因です?」
滝夜叉丸の介入で事が小さくなり気付けばギャラリーは誰も居なくなっていた。気を抜けばすぐ逃げ出しそうなので滝夜叉丸はあきの腕を掴むことを忘れない。あきは舌打ちした。
「僕三木ヱ門君から聞いたんだ。あきちゃんが七松先輩みたいな人が嫌いって言ってたって」
「ああ…」
「僕はいつも避けられてるから僕みたいなのは嫌いなんだと思ってたのに…僕は七松君とは正反対の性格だよ!体格もひょろひょろだし!」
「そ、そんな事は主張しなくても…」
「どうして僕の事避けるの?これからもまだ一緒に勉強していく仲間なんだからハッキリ教えてくれないかな…」
何と男のプライドを投げうった台詞だろうか。タカ丸は半泣きで訴えていた。確かにあきは何故かあからさまタカ丸さんを嫌がっていたし、異質の転入生という点で共通している仲間なのに交流も持てず逆に避けられればショックを受けるのも頷ける。私ならば他人の目など気にせず一人で華麗に生活してみせるけれど…。
「直せることなら直したいし、僕あきちゃんと仲良くしたいんだ」
「そ…」
「うん?」
「………」
「あき、理由があるなら言ってやればいいじゃな…い…か……」
タカ丸の言葉に何か言いかけたあきが黙ってしまったので、滝夜叉丸は強情になって言い出せないのかとあきに助け船を出した。だけどあきの表情を見ようと横に並んでその言葉がどんどんしぼんでいく。タカ丸を一度見ればタカ丸も驚いて目をぱちくりさせていた。もう一度あきを見て滝夜叉丸は何となくがっかりした。
あきは発火しそうに顔を赤らめて絶句していた。
「えーと…あきちゃん」
「あきお前…タカ丸さんがタイプなんだな」
「えっそうなの?」
「滝ちゃん!そんな事言ってないでしょ!!これはそこの斎藤さんがきれいな顔して私と仲良くしたいとか言うからそしたら突然顔が発熱して…そうか!これは風邪だわ!!保健室行ってくる!」
「阿呆め。だから嬉しくて照れたんだろう…」
顔を赤くさせたままいつもでは見られないような鈍い動きで逃げようとするあきの首根っこを滝夜叉丸は掴む。ぐえ、と潰れたような声がした。こんなあきの姿は今まで見た事などない。自分にも。
「…ん?自分にも?」
「滝ちゃん!!!私急患なの!はなして!」
「そっか…あきちゃん、僕の事嫌いなんじゃなくて好きだったんだぁ」
「だから違います!!私は恋なんてしてない!しない!」
「嬉しいな、僕もあきちゃんの事好きだよ」
「…!!?」
タカ丸が嬉しそうににこにこと笑って首をこてんと倒した。そして続いた言葉にあきは再び絶句した。意味もなく滝夜叉丸の腕をぎゅううと握る。
「だからこれから仲良くしようね!」
「ほ、ほ、保健委員ーーーー!!!!」
「あれっ、行っちゃった…」
タカ丸が手を差し出すとあきは起動したからくりの様に突然動きだし物凄い速さで走り去ってしまった。やはり優秀である。あきの通った後を三年の三反田数馬が通って穴に落ちていた。
「せっかく友達になれると思ったのになぁ」
「友達…?ですが、タカ丸さんはあきがす、好きだと…」
「うん?好きだよ。女の子との友情も大切だよね!」
「は、あ…ああ、そういう意味で…」
のほほんと笑うタカ丸に滝夜叉丸は女にだらしがないと言われるのはこの辺から来るのだろうなと思った。それから少しほっとした。美しい私を差し置いて大人になろうなどと許されるものか。これはそういうアレだ。
「う、う、私とした事が…!」
チャリンチャリンチャリン!
「これからは斎藤さんの気配を読んで絶対に出会わない様にしよう…」
チャリンチャリンチャリンチャリンチャリン!!
「まいど」
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