「あっきり丸!」

「あ」


突然走っていくあきに喜八郎は思わず呟いた。それを一緒に歩いていた滝夜叉丸はちらりと見やる。今まで何を置いても優先順位は喜八郎が一番だった。直前まで前髪をさらさらと撫でられて鬱陶しそうにしていたと言うのにその表情は少し不満げだった。
再びあきを見ればきり丸と一言二言話した後にぎゅうと抱き付いていた。それから何処からか出てきた穴の空いた筒をきり丸が差し出せばあきはごそごそと胸元を探り小銭をチャリンと入れる。どうやら有料らしい。そう言えば先日のあれからあきは図書委員になったらしい。その繋がりだろうか。


「あれ、先に行ってればよかったのに」

「べ、別に待っていたつもりなどない。私は自分の美しさの解明に忙しくてだな!」

「どーどー、私の言い方が悪かったよ…」


すぐに戻って来たあきが不思議そうに首を傾けるので滝夜叉丸は何となく恥ずかしくなって捲し立てた。あきがすぐに謝罪してみせるとそれまで黙っていた喜八郎がずいっとあきの目の前に出る。


「?あやちゃん、どうしたの?」

「…僕は待ってた」

「あ、あやちゃん…!」


少しだけむす、とした表情で言われてあきは瞳を輝かせた。


「もーっ!やきもち?やきもちだねッッ!?大丈夫だよおー!下級生はちっちゃくてひょろっこくてぷくぷくで可愛くて大好きだけど私の一番はあやちゃんだから!!」

「うるさい。もう行くから」

「あっ待ってよー!」


呆然とやり取りを見ていた滝夜叉丸は二人がどんどん遠くなっていく事に気付いて慌てて追いかけた。喜八郎が穴堀り以外に執着するなんて珍しいことだ。


「あーやーちゃん!お昼一緒に食べようね!隣に座っていい?」

「嫌だ。滝夜叉丸の隣に座って」

「えー、さっきのデレはどこに行った…」

「うるさい。面倒くさい」

「ひどいなー…でもそんな所もカワイー!クールビューティー!」

「………」


執着と言うより、自分のおもちゃを取られた子供の様な気もする。




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