「ど、どうやれって言うんだよぉ…」
私は職員室の扉から隠れてじっと中を覗いていた。担任の先生は今、ちょうど居なくなった…。だけど回りに他の先生だって居るし、もし私が先生の机を漁ったら絶対に怒られる!無理だ!!でも、やんなきゃ三郎君が恐いし…うう、本当にあいつは鬼畜だ!!やっぱ絶対に三郎君とは結婚しない!!!!
「しっしつれいしまぁ〜っす!せんせー!」
「あら、あきちゃん先生に用事?今ちょうど校長先生に呼ばれちゃったのよー」
「えーっじゃあ、せんせーの椅子に座って待っててもいーですかあー??」
「いいよー」
よし、我ながらナイス!演技力10点!潜入には成功だ。先生のくるくる回る椅子に座ってとりあえずくるくるしておいた。これはやっておかねば。うーん、楽しい……。
「あきちゃん何の用なの?私が聞いてあげようか?」
「えっ!?い、いいんですー!ちょっとクラスの事で相談があるので…」
「そう?」
あ、あぶねぇ…!うっかり椅子でくるくるするのに夢中になってた。時計を見たらもう五分もやっていた。なんと言うことでしょう。早くしなくちゃ先生が戻ってきてしまう…!私は気を取り直して周りを見た。ち…チャーンス!!!誰も近くにいない!誰もこっちを見てない!!今だ!!!!私は素早く机の下にかがみこんで引き出しを漁った。一番下…は鍵が掛かってるな。その上…ない。じゃあその上…あ、あったーーー!!!三郎君が没収されたテトリス!!!時代背景無視の平成初期の代物、間違いない!!サッと取ると素早く引き出しを閉めた。よかったー、もう諦めて帰りもランドセル持っちゃおうかと思ったけど…私はやれば出来る子なんだーーーー!!!!!
「うーん…ぴんくの水玉かぁ」
「ぅぎゃっっ!?!…あ、か、かんえもんくん…!何してんの?!」
「あきー、何してるの?」
いや聞いてるのこっちだからね?!何かスースーすると思ったら声が聞こえて振り返ると、勘右衛門君はいつからいたのか…しゃがみこんでじっと私を見つめていた。全然気付かなかった。冷や汗がダラダラと流れる。
「ん?なんだお前ら、そこで何してるんだ」
「っひ、あ、せ、先生…!」
そこに先生が戻ってきてしまい、机の前で座る私達に眉を寄せた。ど、どうしよう…疑われてる…!?怒られる、こわい!!どうしよう!!バクバクと心臓が飛び出しそうに鳴ってて音がだんだん聴こえなくなる。無意識にぎゅっとゲームの入ったポケットを握ると先生がそれに気付いた。
「?あき、ちょっとポケットを見せてくれ」
「あ、あの…!」
「…せんせー、それはダメだよー。ポケットには今俺があげたラブレターが入ってるんだから」
「そうなのか?」
「そー。ね、あき?」
「あ、え、あ…そ、そうです!」
「じゃあ何でこんな所に座ってるんだ?」
「それはぁ!つりばしこーかでいつも行けない場所で言えば俺に惚れるんじゃないかと思って」
「どこで覚えて来るんだ…全く、職員室は遊び場じゃないぞ、ほら子供は外行け外!」
「はーい、すいませーん!あき行こ」
「あ、う、うん、しっ、失礼しました!」
手を繋がれて職員室の外に出る。暫くそのまま歩いて階段まで行くと、勘右衛門君はくるっとこっちを向いた。
「あれでよかった?」
「あ、う、うん。本当にありがとう…!三郎君にね、ゲーム取ってこいって言われて、」
「ああ、うん。そんな事だろうと思ったー」
勘右衛門君に三郎君のゲームを見せるとにこっと笑ってくれた。あの場に勘右衛門君がいて本当によかった…一人じゃとても切り抜けられなかったよ…!!ちなみに彼も私の嫌いな人ベスト5に入っている。だけど今は株急上昇だよ。まさにヒーローって感じでちょっとかっこよかったなぁ…なーんて!
「じゃーお礼にちゅーしてよ」
「なーんて…え?」
「お礼無いのー?」
「いや、お礼、ね。うん、お礼はするよ何でも言って!」
「だから、お礼にちゅーして」
ああ、お礼だからいいのか…って違う。何を言っているんだと言う顔で首を捻られて一瞬納得しそうになった。いやダメだろ!
「無理だよ!!だってちゅーは好きな人じゃなきゃやったらいけないんだもん!」
「えー、俺あき好きだよ?」
「あ、そっか、なら…ってなるわけないだろがー!!!!私は勘右衛門君好きじゃないもん!!」
「ちぇ、ざーんねん」
意外とすぐに引き下がってくれてほっとした。勘右衛門君は他の人と比べたら私にあんまり怒ったりしないし、そこは恐くなくていいんだけど…。今の私達の距離を説明しよう。両手を腰に回されてめいっぱい私が後ろに反れている。つまり勘右衛門君はやたらペタペタ触ってくるしやたら距離が近いしでコワイ!!!!!今日も相変わらず近ぇ!!!!
「か、勘右衛門君もうちょっと離れてよ…」
「あっ、じゃあさー、呼び方変えてよ!昔みたいにさ!」
「昔…って……」
「ほらー、保育園の時は勘ちゃんって呼んでくれてたじゃん!何するのもいっつも俺と一緒でさー。覚えてないの?」
「……!!!」
お、覚えている…私はずっと覚えているよ…!けどてっきり勘右衛門君は忘れてるんだと思って安心していたのに…!!!ま、まさかアレも覚えているのでは…。
「あ、あのさ、勘右衛門君…」
「勘ちゃん!」
「…あ、のさ、かん、ちゃん…」
「んー?」
「保育園の時の事って…何を覚えてるの?」
私には黒歴史がある。それがこの目の前のやたらペタペタ触ってくる彼な訳だが。保育園の頃、一時期優しくてにこにこ笑顔の勘ちゃんを好きだった時があった。まぁその頃からボディタッチはかなり多かったと言える。何をする時も勘ちゃんの側を離れたくなくて、おいでって言われたらほいほい着いていって、それで…
「何を?そーだなぁ。あきとイチャイチャしてたのは覚えてるよ!そーそーピアノカバーの中に潜ってさぁ毎もぐっ」
「オギャアアアァァアアアァア!!!!!」
あああああ!!!!一番覚えてて欲しくない事覚えてるうううううう!!!!!!!真っ青な顔で勘ちゃんの口を塞ぐ。勘ちゃんは眉を寄せて離してくれと抗議してきた。
「わ、わかったからもう言わないでね!?絶対に口に出さないでね!?」
「(こくこく)」
「じゃ、じゃあ離す…」
「…っぷはー!なんだよー、あきが触ってくれって言うから触ってただけじゃんー」
「だだだだだから言うなって言ったじゃんかああああぁぁあぁあああ!!!!??!?」
「おおっ、あきー落ち着けー、えい!」
「はにゃあ…」
じたばたと暴れていると耳に息をふうっと吹きかけられて力がくたりと抜けた。勘ちゃんに寄りかかるとポンポンと背中を叩いて、楽しそうな笑い声が聞こえる。
「まだ耳弱いんだー。保育園の頃もふにゃふにゃになってて可愛かったよなー」
「い、いいから、離して…」
何とか勘ちゃんの腕の中から脱け出すと人五人分くらい距離を空けた。本当は豆粒ほどまで遠くに行きたいんだけどまだ離れるわけにはいかない…。
「勘ちゃん…」
「なーに」
「お願いだから…誰にも言わないで」
「何をー?」
「だから、………保育園の…」
「保育園の?」
「……さっきの…私が昔言ってた事とか、を…!」
「触ってくれって?」
「!そ、そ、う、です…!」
いちいち繰り返すな!ギリギリとはを噛み締めながら言葉を絞り出すと勘ちゃんはうーんと上を向いて考えて、にこっと笑った。
「うん。いいよ」
「!あ、ありがとう!!」
「いーえいーえ。他の奴に教えるのはもったいないしねー」
「うん?」
可愛らしく首を傾げるのでつられて私も首を倒した。な、なんにせよ言質は取った!よくやったあきー!!!これがもし三郎君だったらさんざん揺すられ脅されカツアゲされてただろうな…うん、勘ちゃんでよかった…!!!
「じゃあ言わない代わりにちゅーしてよ」
「だ、だめだこいつ…」
やっぱり勘ちゃんは嫌だ…。
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