「なっ、なんだ今の叫び声!?こっちか!」


突然金切り声が聞こえて校舎に忍び込もうと向かっていた体がビクッと止まる。今の声、あきっぽいと言われればそんな気もする。やっぱりアイツまだ学校に居たのか!?グランドの端っこの方に走っていくとだんだん泣き声のようなのが聞こえてくる。でも人影は全然見えねぇ。一体どこに居るんだ。


「あきーっっ!居るなら返事しろおっ!!」

「ハ、ハチ君!!?居るよお!ここだよお!!落っこっちゃってピーちゃんがそれでゴキブリがギャー!!!!」

「あき!!!」


声を頼りに向かっていくと普段近寄ってはいけないと言われてる深い溝の中にあきが居た。ドタドタと泣きながら走り回っている。何してんだこいつ。


「お前なぁ…皆心配してんだぞ!!何一人で遊んでんだよ!こんな時間まで!!」

「ああああアホーー!!どうしてこの状況で遊んでるように見えるんだよ!!落ちちゃったの!!上がれなくて困ってたの!!!」

「えっそうなのか」

「そんなんいいから早く助けてええ!!ゴキブリがすんごい追いかけてくるから!!ハチ君生き物係でしょ!!ゴキブリどーにかしてよ!!」

「よ、よしまかせろ!」


泣きながら頼まれて慌ててしゃがみこむ。滑るようにカーブになった溝を滑り降りるとカサカサとうごめくゴキブリを見た。それから素早く手で掴むと上に放り投げれば、ゴキブリはバタバタと飛んでグランドの方へ消えてしまった。


「あき、もう大丈夫…」

「うわあ…、ハチ君ゴキブリ手で掴んだ…うわあ…」

「なんだよ!助けてやったろ!!」

「う、うん…ごめん…ありがとう」


振り返ると一歩下がられて距離が開く。ムッとしたけどすぐにあきの抱えてるものに驚いた。


「そいつ…ピーちゃんだよな?」

「うん。ピーちゃんがね、小屋から逃げてたのを追いかけてたらここに一緒に落ちちゃったんだ…」

「そうだったのか」


それでこんな時間まで家に帰らずに…いや、帰れなかったんだな。こんな真っ暗になって一人で居たあきの気持ちを考えると可哀想になった。ピーちゃんにやられたんだろう、あきは腕に傷をいくつも作っている。泣きすぎて目は真っ赤だし…。パッとあきと目が合えば、ハッとしたように気まずそうに目を逸らされた。そういやあ、まだ喧嘩中だったんだよな…。


「あー…、あのさ、」

「うん…」

「仲直りするか」


俺がそう言うとあきは勢いよく顔をこっちに向けた。みるみる顔が笑顔になっていってドキッとする。ちくしょう可愛いな!


「うん!」

「お、おう。あとさ…」

「え?」

「その傷…もし残ったら俺があきをお嫁さんに貰ってやるよ!」

「えっ」


ピーちゃんがあきの腕からもがいて逃げ出した。俺は手をぎゅっと掴んであきの目を見てそう言うとあきはみるみる目を見開いていった。い…言った!ピーちゃんのしったいは生き物係の俺のセキニン!キズモノになったら嫁に貰うのが男のセキニンだからな!何と返ってくるかと心臓が速くなっていく中待っていると、あきは口を震わせながら開いた。


「ハ、ハチ君…」

「な、何だ?」

「さ…さっきゴキブリ触った手で私の手触んないでよーーーーー!!!!!!」

「痛ってぇ!!?」


バチン!と思いっきりビンタされて軽く飛んだ。ものすごいクリティカルヒット。じゃなくて


「何すんだよ!!?お前はもっと空気読めよなー!!!」

「それハチ君にだけは言われたくないし!!!あほ!デリカシーなし!虫オタク!!」

「て、てめーーー!!!やっぱり仲直りしてやんねぇぞ!!」

「あーいいですよーだっ!!!」


見回りの斜堂先生に発見されるまで言い合いをしていたが、おばけかと思ってびびって喧嘩はうやむやに終わった。




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