「あ、おい。竹谷」
「あ…食満先輩」
「なあ、お前ら今日あきと遊んでないのか?」
あきの名前に思わずドキッとした。今日はあいつと喧嘩してしまったから。俺はスーパーの袋を上まで上げて見せた。
「俺今日おつかいで遊んでないんです。三郎とかはわかんねぇけど…」
「そうか…悪いな」
食満先輩はすぐに片手を上げて自転車に跨がった。何だ、あきに何かあったのか…?
「あ、の!」
「あん?」
「あき…どうかしたんですか?」
「帰ってきてねぇんだよ。遊びに行くにしてもランドセル置きに帰ってくるはずだからさ」
「そうなんですか…」
「まぁ今の間に家帰ってるかもしんねぇし、一旦戻るわ。じゃあな」
今度こそ自転車に乗った食満先輩はすぐに見えなくなった。
あいつ…どこ行ってんだ?別にあんな奴気にしてねぇけど!そういやぁ俺に筆箱投げつけて逃げたあきは教室にランドセルも体操服も置きっぱなしだった。まさかふてくされてヤケでも起こしてるんじゃ…。のろのろと歩いていた足がだんだん速くなる。家に着く頃には全力疾走していた。
『え?いいや、僕が帰る時もまだあきちゃんのランドセルあったよ?学校で遊んでるのかなって思って…もう5時の鐘鳴ってたけどなぁ』
「そ、そうか…」
雷蔵との電話を切って受話器に手を置いたまま固まる。あき、まさかまだ学校に居るんじゃあ……。外はもう真っ暗だ。何となくぐしぐしと泣いているあきの映像が浮かぶ。………。
「…タタタッ!ごめ、ごめんピーちゃん!謝るからお腹蹴らないでください!!!」
抱きかかえた体を嫌がってピーちゃんがげしげしげしげし蹴ってくるのですぐにパッと手を放した。すぐに距離をとられて対峙する。な、なんだよ…せっかく助けてあげたのに…。
ピーちゃんが溝に跳んでった瞬間、私も地面を蹴って飛んだ。50m走8秒だぞなめんなよ。溝はカーブしてるから沿うように落ちて案外平気だった。わたしって運動神経いい。
「うーん…やっぱり、一人じゃ出れないなぁ」
立ち上がって手を上に伸ばしてみるけど全然届かない。カーブを利用して走ってみたけどズルン!と足が滑って顔を打ち付けた。痛い!!!
「む、無理だ…どうしよう…このまま皆に見付けられなかったら…」
ニュースになってしまったらどうしよう。行方不明の少女学校ではっこついたいで発見。近くにうさぎの骨も。飢えをしのいだか。みたいな…。
「いやいや食べてないからね!!助けただけだから!!」
叫んだって誰も返事をくれない。校庭でも一番端っこで滅多な事がなきゃ危ないからいっちゃダメだって言われてる場所だ。誰も来るわけがない。寂しくなってピーちゃんをぎゅっと抱っこするとやっぱり暴れられて逃げられた。く、くそう…!アニメなら気持ちを理解して寄り添ってくれるシーンだよ!!ピーちゃんのわからずや!!!
「ぐす、うう…誰か助けてよ…」
膝を丸めてぎゅっと縮こまる。夕焼けはどんどん見えなくなって空はもう真っ暗だった。何の音も聞こえない。
「私死んじゃうのかな…こわいよう」
この孤独感はんぱねぇ。今すぐ誰かにだきしめられたい。ピーちゃんは平然とひげをもぞもぞさせてるし…ピーちゃん…ぬくもり……。ごくりと唾を飲み込む。もう引っかかれるの覚悟してピーちゃんだきしめるしかない…!とにかくぬくもりが欲しくてそろりと立ち上がると、そーっと背後から忍び寄って勢いよくピーちゃんを抱えあげた。
「ひいっごめんねピーちゃん許して!さみしい私を…!!ってあ、あれ?ひっかいてこない…」
おしりに手を添えてだっこしてみてもピーちゃんは暴れなかった。
「なんだー!ピーちゃんようやく空気読んだんだね!えらいよピーちゃん!!」
顔をピーちゃんの頭にグリグリするとそれでも大人しくしている。お、おかしい…静かすぎる…!いくら空気読んだとしても嫌そうに頭振ったっていいぐらいなのに!
「も、もしかして変な草でも食べちゃった?ピーちゃんペッしなさい!ペッ!!」
そう言えば前にハチ君がウサギには毒になる草があるって言ってた。もしかしてここにはそれが生えてるのかも…。どんな草かは覚えてないけど何となく地面を見下ろすと、すぐ近くを何かがうごめく。
「ひぎゃっ!!ま、まさかピーちゃん虫食べたんじゃ…む、むし、」
カサカサと近付いてくるそれを認識すると頭が一瞬真っ白になった。
「ぎ、ぎいやあああぁぁあああぁあぁあ!!!!!!ゴキブリー!!!!!!!!」
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