「いいかー、二人一組で似顔絵を描いて提出!時間内に終わらなきゃ居残りだからなー」


またペアかあ…。誰に頼もう。配られた画用紙と鉛筆を握って皆動き出す。誰を誘おうかなー。と思っていたら隣に座っていた中村君とばちっと目があった。チ、チャーンス!


「中村君!私とやろ!」

「え、俺?いーよー」

「よっしゃ!じゃあ隣の準備室行こ!」

「おー…あ。」

「え?」

「おい。お前は私とやるよな」


中村君が私の上を見ながら声を出して、振り返る前にがしりと頭を掴まれた。


「い、痛い!!三郎君!私は中村君とやるって約束を…」

「してないよな?中村」

「あ、ああ!してないないっ!」

「お、おい!!!」

「俺は他の奴とやるからさぁ!じゃな!」


私に発言する隙を与えず中村君は席を立って逃げてしまった。あ、あああー!!まともな時間になると思ったのに…!!ぐい、と首根っこを掴まれてのどがつまる。


「ぐえっ、ちょ、」

「準備室に行くんだな。わかった」

「ささ三郎君!雷蔵君としなくていいのっ!?」

「雷蔵と描き合ったって顔が似てるからつまらん」

「えー、いつもはおそろしいほど何でも一緒のくせに…」

「あ?私に不満があるか?」

「ないないないない!!!!」


お怒り直前のイラつきを肌で感じたのですごい勢いですごい首を振った。第6感的なの開花しちゃってるんじゃないの?三郎バイリンガルとかが……マジいらねぇ機能だな…。



準備室にずるずると引きずられて入れば他に使っている子は居なかった。多分これから入ってくる人も居ないだろう。三郎君が入ったらねもう。誰も寄らないからねもう…。
入ってから椅子に座らせると何も喋らずに始めてしまった三郎君に私も慌てて始めた。三郎君は授業は結構真面目だ。真剣に見つめられるとなんか……

き、き、緊張するんだよーーー!!!!こんな見つめられると緊張するんだよーーー!!!!特に恐れてる人物に見つめられてるからね!!蛇に睨まれたカエルだって動けなくなるんだから私だって動けなくなるに決まってんだろ!悪魔に睨まれてるんだよ私はー!!


「………」

「……おいあき。お前もちゃんと描けよ。居残りになるだろ」

「う、うん…」


思わず手が止まって固まっていると三郎君は紙に視線を落としながら呟いた。私だって居残りしたくないよ!!椅子に座ってる時間を惜しむほど外でかけずりまわってたいんだよ!!!そーゆータイプなんだよ!!!
とは言わずに思っているけど、ちらちらと私を真正面から見つめる三郎君にたらりと冷や汗が流れる。だ、だ、ダメだーーー!!邪魔しちゃいけないふいんきさくれつ!!私はもう動けない!!!!


「おい。何で書こうとしないんだよ」

「う、う、だって…見つめられると緊張するんだもん!」

「それが授業なんだなら仕方ないだろ」

「だ、だってぇ…!三郎君だから余計に意識しちゃうっていうか…」


恐怖のあまりと言う意味で…。これはもう体に染み着いてるんだからしょうがないじゃないか!三郎君の視界に入って私に一利なし!あっ百害あって一利なしってこういう時に使う言葉か。実体験から学ばせていただいてるよね。前に覚えたのはにてもやいてもくえない。


「そ、そうか」

「うん…」

「なら、私が終わったらあきがやれよ」

「うん…えっ?でもそしたら居残り…」

「たまにはいいさ」

「あ、ありがとう三郎君!!なるべく早く終わらせるからね!!」


わーいやった!居残り自体はすげー嫌だけど!それも三郎君とがって言うのはすげー嫌だけど!でも一緒に残ってくれるって言ってくれたしラッキー!どうした三郎君!いつもなら「居残り?私の顔を思い出しながら書けば」ってなるのにどうした三郎君!!いい面もたまにはあるじゃーん!!

と思わずにこにこしているとシュバッと三郎君がまばたきをせずに鉛筆を走らせ始めたので恐ろしくなってすぐに青ざめた。なんでか舌打ちされた。







「居残り?ああ忘れてた。今日雷蔵の習字教室着いていくからパス。私の顔を思い出しながら書けば」

「ち、ちくしょう!!」




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