「ここか…?」

「この家ってさ…」


皆をぞろぞろと連れてたどり着いた家の前で、皆は表札を確認して黙った。私がインターホンを押すと暫くの沈黙のあと聞き慣れた声が響く。


『…はい』

「あっ、留兄ちゃんあきですちょっとおねが」

「あきっ!!お前なあ!!!」

「早ぇ…」


用件を言い切る前に留兄ちゃんが玄関をすごい勢いで開けた。こ、恐い…!今日もすごいぎょうそうだ!!サッと思わず雷蔵君の後ろに隠れるとそこでようやく皆に気付いた様に留兄ちゃんは眉をひそめた。ていうか三郎君、雷蔵君の後ろに隠れたのは謝るから耳引っ張んないでよ!!!


「あ?何だお前ら」

「こんにちはー、食満先輩」

「と、留兄ちゃんあのね、お願いが…」

「あき、お前おとなりやめるって言ったまま俺の事避けやがって!窓の鍵閉めてんじゃねぇよ!」

「ごめんなさい留兄ちゃん!!」

「え、まさか漫画みたいに部屋から行き来できるパターン?」


今度は三郎君が恐くて兵助君の背中に隠れると、後ろから勘ちゃんがのし掛かってきた。ちょっとやめてくれます留兄ちゃんの睨みが炸裂してるから!!!


「先輩、いきなり押しかけてすいません。あきちゃんに子猫の貰い手を探してもらってて…」

「子猫?」

「そ、そそうそうなの。留兄ちゃんのお母さん猫飼いたいって前に話してたから…」


ぺいっと勘ちゃんを振りほどいて前に出ると、留兄ちゃんはあー…とバツが悪そうな声を出した。ま、まさか…。


「悪い、ウチは駄目だ」

「どっどうしてー!?子猫拾ったら教えてねっておばちゃん言ってたのに!!」

「あー、言ってたな。でも実はもう猫飼ってんだよ」

「え、…え…!?」

「昨日伊作が見つけてな、だから、あー、悪いな」

「そ、そんなぁ…」


悪い、と頭を撫でられてしまってはもう何も言えないじゃん…。絶対にいいって言ってくれると思ったのに…なんなら猫飼ってくれたらお隣はやめないって交換条件すら出そうと思ってたのに……私って性格悪いな…。


「そうですか…じゃあしょうがないですよね。皆行こっか」

「本当に悪いな。あきにもすぐ言っておけばよかったよ、ごめんな」

「う、ううん…私が留兄ちゃん避けてたから悪いんだし…」


ああ、どうしよう…。皆が目に見えてがっかりしてしまって、私は縮こまる思いでいた。大見栄張っちゃったから、皆期待してくれてたのに…最初からもっと可能性は無いていで言っておけばよかったよ…。いや、それじゃこんぽんの解決にはならないなぁ…。ハチ君と兵助君がずうん…としてしまって、申し訳なさから涙が浮かぶ。私が泣いたって仕方がないのに。留兄ちゃんに罪悪感持たせちゃうし、泣きたいのは猫ちゃんの方だ…だけど…


「あきちゃん…」

「ご、ごめんなさい…」


ぽろりと零れてしまったのを雷蔵君に見られてしまい慌てて目を擦ると、誰かが優しく私の頭を撫でた。


「仕方ない。最後の一匹は私の家で飼おう」

「三郎!本当か!?」

「ああ。元々ウチは昔猫を飼ってたんだ。飼えなくはない」

「え、そーなの?なら最初から三郎でよかったじゃん」

「今家に犬が居るんだよ。だからどうかと思ってな…まぁ大丈夫だろう」

「そうか!三郎!本当にありがとな!!」

「助かるよ、三郎」

「…あきちゃん、よかったね」

「う、うん…!!」


雷蔵君に背中を叩かれて上ずった声で返事をすると三郎君がちらりと私を見た。


「三郎君…ありがと!」

「何だ、お前に感謝される様な事してないだろう」

「うん!でも、ありがとう!!三郎君の家に猫ちゃん見に行ってもいい?」

「ああ。ちゃんと育ってるか確認に来いよ」

「うん!毎日行くねーー!!!」

「何だと」


三郎君の手を取ってぶんぶん振ってお礼を伝えていると後ろからグイッと引っ張られてよろけた。


「留兄ちゃん!」

「あき、猫なら俺の家にも居るからそれ見にこい。な」

「な、何でだよー!」

「阿呆か!お前はこいつにいじめられてピーピー泣いてんだろが!」

「むっ、猫ちゃんは関係ないもん!!三郎君家に見に行くもん!!」

「ああ!?」

「ぴっ…!うっ、うう…留兄ちゃんのわからずやーーー!!!やっぱりお隣やめてやるううう!!!!!」

「!?!??!!?」


私は泣いて隣の家に逃げ込んだ。猫見て帰ってくるだけだもん!!!怒る事ないじゃん!留兄ちゃんのわからずや!!もー知らん!!!今度は鍵だけじゃなくて雨戸も閉めてやるうううううう!!!!





「あー、もしかして三郎これ狙ってたのか?」

「猫の貰い手俺あるかもって言ったらもういいって言ってたもんね」

「三郎…すごい愉快そうだなぁ。良かった良かった」

「あ、俺塾の時間だから帰る」




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