「失礼しまーす。せんせぇー…あれ、居ないか…」
放課後保健室を訪ねるもお目当ての新野先生は居なかった。新野先生は他の先生よりにこにこしてて優しいし怒んないし、ゆっくり話聞いてくれるし好きだ。
「あーあ、頭直してくれるかもって思ったのに…」
三郎君にごわごわにされた頭を撫でる。やっぱりダメかぁ。せっかくママが綺麗にしてくれたのに…くそっ、三郎…許すまじ…!!!!寝る前に三郎君が悪夢を見ますようにと毎日祈ってやる!!
「失礼します…あれ、あきじゃないか。どうしたの?怪我した?」
「あ…、伊作くーん!!」
「うわっ」
静かな保健室に優しい声が響いて振り返ると伊作君が居た。伊作君は留兄ちゃんの親友だ。優しくって恐くない伊作君はだーいすき!!久しぶりに会えた事が嬉しくて思わず抱き付くと伊作君は少しよろけたけどしっかりキャッチしてくれた。
「えへー、久しぶりだね!」
「そうだね、元気だったかい?保健室でどうしたの?大丈夫?」
「うん、怪我じゃないよ!ちょっとその…髪の毛を新野先生に綺麗に直して欲しかったんだけど」
「そっか。新野先生は今日午後から居ないんだ。ごめんね」
伊作君が悪いわけでもないのに申し訳なさそうに困った顔をする。三郎君達とは大違いだよ!!!!!!あいつら五人は絶対に私に謝ったりしないからな!!!!
「伊作君は何してるの?」
「うん?僕は保健委員長だから、下校時間まで新野先生の代わりをするんだ」
「そうなんだー!スゴーイ!!!ねぇねぇ、少しお話してー!」
「いいよ。座って、お茶出したげる」
「わーい!」
何っっって優しいんだろう!!人の優しさに久しぶりに触れて涙が出そうだよ…!!!お茶を淹れてくれた伊作君は隣に座ると口に人差し指を当ててにこっと笑った。
「はい、これ、他の子には内緒だよ」
「わ、お菓子だー!!伊作君ありがとー!!大好きいー!!!!」
「うわっ!!」
なんていいお兄ちゃんなんだ!!!目を輝かせて思わず再び抱き付くと今度は倒れてしまった。ソファの上でよかった。
「ごめんね伊作君!」
「いてて…ううん、大丈夫だよ」
「首ぐきっていってたけど大丈夫?」
「う、うん…」
「……伊作、何してる」
首を押さえる伊作君が心配で覗き込んでいると、後ろからから地を這うような声が…。伊作君と二人してギギギ、と壊れた人形のように首を動かすと瞳孔開いちゃってる留兄ちゃんが居た。
「と、ととっととととめ留兄ちゃん」
「伊作」
「いや、僕は何もしてないけど…」
「そうそうそうだよ私が抱きついちゃって首がぐきってなって」
「抱きついただぁ!?伊作…」
「いやだから…ダメだなこれ、聞く耳ないやガフッ!!」
「い、伊作君んんんんん!!!!!」
伊作君が吹っ飛んだ!!!
留兄ちゃんのかいしんの一撃!!
とかいってる場合じゃないよね!!!
慌てて駆け寄ると頭にひよこをぴよぴよさせながら伊作君は起き上がった。
「だっ、大丈夫!?」
「ああ、うん。このくらいなら平気…」
「伊作お前!こいつに何してやがる!こいつはただでさえビビりでにんげんふしんなのに」
「やっやめてよー!!!」
慌てて留兄ちゃんと伊作君の間に入ってかばうとギロリと睨まれた。ひ、ひい…恐い!!!!!だけど伊作君を守らなきゃ!!!
「あきそこどけ」
「や、やだ!!!」
「ああ!?」
「うぴっ…!!だだだだって留兄ちゃんが伊作君いじめるから!!」
「いじめてねぇよ。指導だ」
「な、なんといういじめっこ台詞…」
「あき、大丈夫だからそこどいて」
「や、やだよー!!」
「あっお前!」
「うーん…困ったなぁ」
伊作君にも言われて、収まりがつかなくなったので伊作君にぎゅうっと抱きついた。
「留兄ちゃん、違うって言ってるのに伊作君殴ったもん!!殴るなら私を殴ればいいんだー!!!」
そしたら留兄ちゃんのお母さんに言いつけてやるけどな!!!
「はあ…何だこれ」
「あ、留三郎正気に戻った?」
「ああ。伊作、悪い…」
「いいよ、それよりあきを落ち着かせないと」
「伊作君をいじめる留兄ちゃんなんか…嫌いだーーーー!!!!お隣なんかやめてやるううううう!!!!!」
「!?!??」
「あーあ…言っちゃったよ」
ぴしり、と固まった留兄ちゃんの横をすり抜けて保健室を飛び出した。留兄ちゃんのあほーー!!!!いじめられる側の気持ちがてんでわかってないんだから!!!!一から教えてやろうか?!ああん!?
…あっ、勢いで伊作君置いてきちゃった………まぁいいか。親友だし。
「おーい留三郎。大丈夫?」
「嫌い…嫌いだと…?お隣やめるって…」
「あきが感極まると爆発する所、留三郎によく似てるよ」
「きらい…こわいじゃなくてきらい…初めて言われた…」
「聞いてないなこりゃ」
「伊作、お前はもうあきに近付けんからな…」
「今までだって近付けなかったくせに…ていうか八つ当たりはやめろよな」
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