「あっ、おい!なあー教えろよー!」
「…竹谷君、おはよー」
「はよ!」
「………」
「……いや、答えろよ」
「えへへー?」
「いや、答えろよ…」
結局笑って誤魔化した私は、毎日の様に竹谷君から質問に遭う。うん、全然誤魔化せてない。笑って逃げているだけ。だけど最近は、このやり取りが定着してしまって挨拶の定型文に雛型登録されそうです。誰も使わねぇよ…。
普段は短い休憩の中で質問されるくらいで、私も竹谷君も友達と行動するからそんなに長々と問い詰められる訳でもないんだけど…今日から文化祭の準備始まるんだよなぁ…そうしたら、放課後竹谷君とずっと一緒……はあ、どうしよ…。
ちらり、と不破君達と喋っている竹谷君を見る。今日も元気だなぁ。笑顔がかっこいい…。
好き、なのは本当だから…否定もあんまりしたくない。でも肯定すると竹谷君から返事が返ってきちゃうわけで…い、言えないよお…!!大体竹谷君の態度もよくわからなくて、もしかするとあんなに聞いてくるって事は少しは私の事気になってる…?とも取れるし、冗談ならもっと気さくに接してやろうと思ってるようにも取れるし…。なまじ竹谷君の態度が曖昧で、こっちも少しだけ期待してしまうのだ。…ってダメだな、人のせいにしてちゃ…これは自分の気持ちなんだから……。
「竹谷ー!今日ボーリング皆で行こうよー」
「あー、行きてぇけど、今日は大道具の仕事あるから…」
「えーっいいじゃん、終わってから来て!!」
「悪い!今度な!」
「………」
もし気持ちを伝えるとしたら、竹谷君が聞いてくれる内に言ってしまった方がいいんだろうな…。仮にも今なら竹谷君は私の事気にしてくれてるし、興味をなくされてからでは遅いんだと思うけど……。
「えーっと、大道具は劇で使う舞台背景の準備な!色塗りしてから貼り合わせて一枚のでっかい紙にするから!絵柄はここにプリントしたのあるからこれ参考にしてくれ」
放課後、広い廊下に集まった大道具は竹谷君の指示を合図にぞろぞろと行動を開始する。私どうしようかな…皆役割をたったか決めて行く。紙を貼り付ける人、下書きを書く人…私はペンキでも貰ってこようかな。生徒会室に行けば貰える筈だ。
「私、ペンキ貰ってくるね」
「ん?あ、重いから俺も行くわ。ちょっとやっといてくれ」
「おー」
「じゃー行くか!」
竹谷君は他のメンバーに声を掛けると私にニッと笑いかけた。生徒会室は一番上の階だから階段に進むと、賑わっている廊下とは対称にあっという間に人気が無くなる。竹谷君、ジャージ似合ってるなぁ…私のジャージ、近所のお兄ちゃんのお下がりだから…ぶっかぶかだもんな。
「あのさ、」
「うん?」
「何度も聞くようなんだけど…結局あれってどういう意味だったんだ?」
気が付くと階段の途中で足を止めた竹谷君は、じっと私を見下ろしていた。
「えー?えへへ…」
「…はあ」
あ、溜め息つかれちゃった…。呆れたかな…。不安になって竹谷君を見上げると、腕を組んで頭をひねっていた。
「うーん、お前とは一回じっくり話す必要あるなー。よし、今日終わったらファミレス行くか!」
「………」
「ダメか?」
まぶしい笑顔でそう言った竹谷君は、私の反応が無くて困り顔になる。私はそんな竹谷君がやっぱり好きで…。
「…大道具の仕事が全部終わったら、じゃあダメ…?」
「!いや、いいよ。じゃあ終わってからな!」
竹谷君は一度驚いた顔をして、だけどすぐに笑顔になった。笑ってくれたのが嬉しくて思わず竹谷君のジャージの裾をきゅ、と握る。竹谷君も聞く体制は出来てるみたいだし…言うつもりはなかったけど、どうせなら言ってしまおう。きっかけこそ望んだ展開じゃなかったけどやってやろうじゃないのよ。
「…竹谷君?どうしたの?」
「あ、ああ、いや、何でも…」
竹谷君はさっと私から顔を逸らして手で口を覆ってしまった。早く行こうぜ、と歩きだした竹谷君は裾を握る私を振り払うこともなくて、私は階段を登る間だけ手を離さないで居させてもらった。
(あああああやばい可愛すぎんだろそんでジャージでかすぎて可愛すぎんだろどういう事これ本当こいつ俺の事どう思ってるんだよ気になるー!!!)
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