今日は、初めてのお出掛けだ。
化粧を変えてから、って言うのもあるんだけど、その、は、初めての逢い引き…。

巾着から鏡を取り出して顔を確認する。あの日、部屋に戻って恐る恐る鏡を覗き込んで卒倒するかと思った。利吉さんの化粧、ほとんど私の顔だったから…。
立花くんに見つかってしまったから、なんとなく予想は出来て覚悟はしていたんだけど…くのたま長屋に響き渡る位に絶叫はした。


「本当に、私これでいいのかな…」


いつだって鏡に映る自分の顔は、素顔を人に見られる事を恐れて恐怖に歪んでいた。これでいいって、あの人は言ってくれたけど…。


「何も問題はない」

「!…た、立花くん!」


音も立てずに突如現れた気配に振り返ると立花くんが腕組みをして立っていた。思わず反射で二歩程後退さってしまう。そんな私を見て立花くんは諦めたように笑った。


「あ、ご、ごめんね、」

「まぁ…仕方がない。これは私が受けるべき罰だな」

「そんな…あの、私立花くんに感謝してるよ!」

「?」

「だって、立花くんが言ってくれなきゃ私は自分の顔なんて何も考えずに生きて居ただろうから…」

「…あー、あのな、」


そう。恐怖の対象でこそあったけど、彼の一言で美について考える事を覚えた。化粧は、最初に伝子さんのを覚えちゃったから、まぁ…。だけど、私はあの日から綺麗になるために努力はしてきたのだ。
言葉を濁す立花くんをじっと見つめていると、目が合って優しく微笑まれた。


「…すまない。私は、意地悪だった。お前は、一人占めしてやりたい位笑顔がとっても可愛かったよ。そして今は、綺麗だ。とてもな」

「!…そ、それは立花くんのおかげだよ!ありがとう!」


また昔みたいに立花くんに可愛いって言って貰えたことが嬉しくて、頬が熱くなるのを感じながら笑顔でお礼を言った。立花くんは、しばらく目を点にしてた。あ、あれ…?


「もう少し、早く伝えていれば……!」

「?、?」


「人の恋人を捕まえて何してるんだい?」


頭を抱えた立花くんが大丈夫か心配で少し近寄ると、後ろから声が降ってきた。そしてすぐに、背中に体温を感じる。


「利吉さん!」

「やぁ。待たせて悪かったね。うん、ちゃんと化粧出来てる。今日も可愛いよ」

「あ、ありが、とう…ございます…」

「あ、照れてる。では行こうか」


くるりと向かい合うように回転させられて、頬を包み込まれる。毎回会うとこうやって化粧の確認をしてくれるけど…こんな至近距離で覗き込んでしなきゃだめなのかな…恥ずかしい…。


「は、はい。…あ、立花くん、待って!」


振り返るともう既に遠くまで行っていた立花くんを走って追い掛ける。立花くんも、利吉さんも不思議そうに首を傾げた。


「……。…本当に、ありがとう。立花くんに綺麗って言われて嬉しかったよ!」

「……………お、お前、それ何処で覚えた?」

「?忍者は、ありがとうのお礼はこうするんでしょ?そうですよね、りき、ちさぁっ!??」


思いきりお腹に腕を回されて景色がビュンビュン流れてく。すぐに頬に手を当てた立花くんは見えなくなってしまった。











「…あのね」

「はい」

「………はぁ。何と天然記念物だな…」


どうやら恋仲が居る人はやらないらしかった。そうなのか…色々ルールがあるんだな…。

前髪をかきあげた利吉さんと目が合いドキリとする。さ、さすがモテる男山田利吉…色気がすごい…。直視出来なくて視線をうろうろさせていると、利吉さんは少し顔を屈めて私に近付いた。


「恋仲はね、やる事があるんだけど、覚える?」

「は、はい…。知っているのと違うかもしれないので、私に恋仲を教えてください」

「…本ッッ当に君、危ないね」

「え?」

「いや…。日が暮れたら、私の手を取ってこう言って」

「はい」

「『暗くなったから、いいですよ』って」

「…それだけ、ですか?」

「あぁ。言えるかい?」

「ええ、まぁ、はい…」


恋仲は、行動ではないのか?利吉さんは一度向こうを向いて拳を握っていた。






彼女が笑顔になるために






「言っておくけど、それを言ったら取り消し効かないから」

「はあ…」



end
(※アンケート結果 利吉16票 仙蔵4票)

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