夕方、私はスキップをしそうな勢いで歩いていた。利吉さん、そろそろ来るかもしれないから校門で待ってよう。

お師匠さま(伝子さん)が可愛いって言ってくれたし、一体どんな顔なんだろう。利吉さんに教わった化粧なら、とっても簡単だったし時間も掛からなくていいなぁ。伝子さん直伝のお化粧は、何かと時間がかかるから…。

朝は皆の視線が怖くてビクビクと過ごしていたけど、くのたまの校舎に戻ってからは友人や後輩から「可愛い!」「化粧お上手ですね!」「いつもの化粧よりうんと可愛いよもうそれにしな!いやいっつものもよかったけどね!?」などと絶賛の嵐で照れながらも心が暖かくなった。
部屋に戻ろうとすると何故か皆が寄ってたかるから、結局自分で自分の顔は見てないんだけど、まぁどうせお風呂の前には見ることになるし今更いつ見たって一緒だからお昼頃には諦めた。

小松田さんに一言伝えて校門の外に出ると門に寄りかかって一息ついた。もういつ日か沈んでもおかしくないし、じきに来るだろう。

遠くから通行人が見えた。だけど髪の毛が長いし利吉さんじゃないなぁ、と何となく目で追っていた。段々と近付いてくるその姿に冷や汗が流れる。
さらさらストレートのロングヘアー。女の子なんかよりも白い肌に、切れ長の瞳…。

た、立花仙蔵くん…!!!

そう、彼こそが幼い私に真実を教えてくれたその人だ…!もちろん、感謝している。立花くんが教えてくれなければ、私は醜い顔を晒してへらへらと生きていただろうから。だけど、怖いもんは怖い!
心臓がドッドッとすごい鳴り方してる。こんなの聞いたことない。気付かれる前に逃げたかったけど恐怖で足がぴくりとも動かなかった。

お、落ち着いて…今は化粧してる。皆が可愛いって言ってくれたんだから、私の素顔は見えてないはず…。立花くんが私を素通りして中に入ってくれることを祈って顔を伏せた。

だけど、俯いた視界に私の前でこちらを向いて足を止めているのが見えてるんですよね…。


「ここで何をしているんだ」

「あ、ち、ちょっと待ち人です…」

「そうか。もう暗くなるぞ。ちゃんと来るのか?」

「は、はい。約束をしているので…」


あれ?もしかして、気付かれてない!?
普通に会話しているし、きっとそうなんだ!
パッと顔を上げると、にっこり笑った綺麗な立花くん。


「しかし、数年ぶりに見たな、お前の顔。何も変わっていない」

「……え?」

「お前の顔は、」


バレてた。立花くんも、何も変わっていない。昔と同じ、綺麗な顔で、綺麗な笑顔で、また同じ事、言うの?


『ブスだな』


聞きたくない。怖い!

涙がこぼれて立花くんの言葉は切れた。


「…何故泣くんだ」

「何をしてるのかな」


夕日を背に利吉さんが現れた。





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