「いいか。私がポイントを言いながらやるから、自分で出来るように頑張るんだよ」

「そ、それは山田先生の化粧と比べてみな」

「頑 張 る ん だ よ」

「は、はぁい…!! 」


やけくそになって返事をすれば、利吉さんはふわふわの筆を取っておしろいを開く。


「まずはおしろいだ。君は付けすぎだ。あれではピエロだよ。おしろいは、肌を明るく見せるものだ。筆に取って一度叩いて振るって、残った粉の量で十分だ。次に眉。あんなに太く書き足す必要はない。おしろいで薄くなった眉を少し書き足すだけでいい。最後に紅、君のは唇の真ん中だけにしか描いていない。自分の唇の、少し内側までを塗るんだ。下唇の両端は少しだけ細く描くと小さくて魅力的な唇になる。…こんなものだな。もう手を下ろしていいよ」


前髪を下ろして、ゆっくりと目を開く。緊張してずっと目を閉じてしまっていた。利吉さんがニコッと笑ってうんうん頷いている。


「ほら、さっきより全然見違えた」

「あ、あの…素顔は見えてないですか?」

「…さっきから思っていたが、どうしてそんなに素顔を見られたくないんだ?君の素顔は別に」

「顔についてのコメントは結構です!!!!」

「…理由は教えてくれるか?」


まぁ、無理矢理だけど素顔見られちゃったし、中途半端な情報って後味悪いもんな。私は渋々、昔話をした。


「昔、低学年の頃に、男の子にブスだって言われたんです。笑うと特に酷いって…だから素顔を出すのが怖くて」

「そうか…それで父上の化粧か…」

「伝子さんの化粧は紙に絵を描くような方法だったので安心できるんです…」


それに結構悪くないかなと思ってたんだけどな…。
利吉さんは私の目線まで顔を下げてにこっと笑った。


「そんなに心配しなくても大丈夫。今の君はとっても可愛いよ」

「そ、そうですか…」

「あ。赤くなった」


そんなに誉められても、自分で自分の顔は見れないし…。部屋に戻って見てみよう。


「今日一日はそのまま過ごす事。日暮れ前にまた忍術学園の前を通るから、それまで落とさないように」

「え、えぇ…」

「何だ?」

「い、いえ…わかりました」

「よし。いい子だ」


そう笑うと、私の頬を傾けて利吉さんが近付いてくる。ん?んん…?




ちぅ




「………」

「お礼は、これでいいよ」

「あの、それって普通なんですか…?」

「あぁ。普通だ」

「はぁ、そうなんですね」


頬っぺにちゅう、なんて、恋人のする事だと思ってたけど…。これも忍者の間では常識なんだろうか。





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