「あき、ちゅー」
「えっ、鉢屋君は…?」
「飽きちゃったよー」
「あき、私が雷蔵ばかり構うから拗ねたのか?馬鹿だな」
「い、いやそんな…あ、久々知君、助け」
「何。助けが必要なのか。苦しいのか?よし、先ずは服を脱がせてやろう」
「じゃあ俺も心臓マッサージしてあげよー」
「たっ…立花先輩私に全てのお酒を下さいーーーー!!!!」
「……はっ!!…ゆ、夢か…怖かった…」
私は飛び起きて心臓を押さえた。辺りを見渡す。やっぱり夢じゃなかった。さっきのは、私が記憶をなくす前の最後の映像だ…。
皆が寄って集って来た瞬間、この宴会から逃げ出すためにお酒を飲みきってしまおうと…思ったんだけど…。記憶が曖昧でどうなったのか分からない。皆死んだように寝ているけど…。あれ?立花先輩居ないなぁ…。
「…ん、何だ。起きたか」
「あ、はい。おはようございます…」
障子が開いて、外から立花先輩が顔を拭きながら入ってきた。顔でも洗いに行っていたんだろうか。私も行こうかなぁ。ぼんやり見ていると立花先輩は手拭いを私に放った。わ、冷たい。
「冷やしてきてやった。それを使え」
「あ、ありがとうございます」
お言葉に甘えて手拭いを顔に押し付けると、ひんやりとして気持ちいい。暫くして離すと大分目が覚めたように思う。あ、よく見るとこの手拭い私の奴だ。
「立花先輩、結局どうなりましたか?」
「覚えてないのか?」
「はい、私、途中で飲みきれなくて寝ちゃった…んですよね?くのたまの敗けでしょうか」
立花先輩は目をパチパチさせて、首を振りながら笑った。横に振るって事は…敗けじゃないのかなぁ。
「あき、お前の勝ちだ」
「え、じゃあ…記憶が無いけど全部飲みきったって事ですか?」
「いや、そういう事でも無いがな…まぁ
最後まで立っていたのはお前だったと言うことだ」
「??あの、教えて頂けませんか…?」
一体どうなったのかよく解らなくてそう尋ねれば、立花先輩は愉快そうに顔を歪ませた。あ…こ、この顔は…やらかした私を嘲笑う顔だ……。私は青褪めた。
「おい、そんな一気に飲んで大丈夫か?」
「……ん、ぁ。さぶろ、う?」
「何だ?」
ぎゅう
「ふふ、ねーぇ、触って?」
「ん?…え?」
「ほら、私の心臓…すごくドキドキしてるでしょ…?もう我慢出来ない…今すぐ……服を脱がせてやるうー!!」
「ちょ、おい、待て待て待て!」
「待たないー!みーんな脱、が、せ、て、あーげーるーねーー!!! 」
「まさかお前が酔うと脱がせたがる悪癖があったとはな」
「あああああ…!!」
私は頭を抱えた。よく見れば、上から制服を掛けてあるけど全員褌姿だった。頭を抱えていると立花先輩が肩を叩く。そして紙を手渡された。
「これは、私からお前に誕生日プレゼントだ」
「!あ、覚えてくれてたんですか…」
「ふ、まぁな」
そう言えば、最近は朝晩は肌寒くなってきたし。もうそんな時期だったのか。立花先輩覚えていてくれたんだなぁ。紙を開くと文字を目で辿り、よくわからず首を傾げた。
「まぁ持っていろ。役に立つだろう」
「?わかり、ました…あの、ありがとうございます」
「礼などいらん。お前は可愛い後輩だからな?」
そう言われて頬を撫でられる。立花先輩が本当に味方でよかったと私が頭を下げにいくのは陽がもっと高く昇った頃の話。
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