「あき、大丈夫かい?」

「あ、善法寺先輩…私はまだ大丈夫です」

「あきは強いんだ。僕はもうきついよ」


会が始まれば以外と和気あいあいとした飲み会だった。ちびちびと手渡されたお酒を飲んでいると、善法寺先輩が隣にやって来た。


「先輩、顔赤い」

「はは、僕すぐ顔に出るから…」


善法寺先輩は首まで真っ赤に染めて、いつもより力の抜けた笑顔を浮かべている。お酒苦手なんだなぁ。


「大丈夫ですか?お水持ってきます」

「いや、いいよ。それよりあき、他の子はどうしたの?」

「皆はその…上手く逃げました」

「なるほど…それで一人なの。可哀想に…」


善法寺先輩は私の頭を撫でる。酔っ払ってるから気にしない、けど、顔近いなあ…。


「こんな会に一人で大変だね」

「いえ…普段の善法寺先輩の方が大変そうですよ…」

「えっ?」

「だって先輩、くのたまの実習よく手伝ってくれるし、酷い目に逢うってわかってて笑顔で手伝ってくれるじゃないですか。本当にいつもありがとうございます」


善法寺先輩はとっても優しくて、言い方は悪いけど、その…騙しやすい。だから皆何かあるとまず善法寺先輩にたかるのだ。それを先輩はいつも嫌な顔せず引き受けて凄いなぁと思う。そんな事を考えていると善法寺先輩にがしりと両肩を掴まれた。


「そ、そんな事を思ってくれる子が居たなんて僕は…てっきりくのたまに鴨だと思われてるとばかり」

「ぜ、善法寺先輩、」

「留三郎達にもいつも言われてるんだ。お前はもう少しくのたまを手のひらで転がすぐらいの器量を持てって。だけどくのたまの子達は騙してる実感ないと成長出来ないだろうし…解ってくれる子が居てよかったぁ…うう、嬉しいよぉ…!」

「あ、あの」


善法寺先輩はうるうるとした瞳で今にも泣き出してしまいそうな顔で捲し立てると、とうとう泣いてしまった…まさか、泣き上戸…?


「しかし…僕の事理解してくれる子なんて居たんだなぁ…あき、」

「あ、あの…」


善法寺先輩は瞳を潤ませたまま、私の目をじっと見つめてきた。あれ?何か、これは…。
唇がくっついてしまいそうなほど顔が近い。善法寺先輩はおでこをくっつけて涙目で微笑んだ。善法寺先輩には悪いけど…これやられたら男の人落とせそう…。


「この後僕の部屋来る?」

「えっ?!あ、や…私は」

「……ダメ?」

「…!」


「おいあき!飲み比べだと言うのに飲んでないと敗けだぞ!こっち来てもっかい勝負だ!」

「あーあ、残念…」


両肩を掴んでいた腕はいつの間にか抱きしめる様に私の頭の後ろで腕を交差させて肩に乗せられていて、潤んだ瞳で首を傾げる善法寺先輩の質問に固まると首根っこを七松先輩がぐいっと引っ張り離された。
あ、危なかった…思わず頷いて、「抱かせてください!」とか言いそうだったよ私…。あんな泣き上戸ズルい…!私の頭に強烈にインプットしました。善法寺先輩は、誘い泣き上戸…!


「よーし、この湯呑みで一気だ!飲みきれなきゃくのたまの敗けだからな」

「わかりました」


七松先輩にポイッと放られて湯呑みを渡される。先輩の事だから、最初の巨大な桶でと言われたらどうしようかと思ったけど…安心した。これなら何とか…。
近くにあった樽を取り七松先輩と私の湯呑みに酒を注ぐと、スタートも無しに七松先輩はぐびっといかれたので慌てて私も湯呑みに口を付ける。ああ、きっついなぁ…。一度飲むのを止めてしまいたい。けど、七松先輩の視線がそれを許しそうにないから私は頑張った。とも思えば、七松先輩が私の湯呑みを勢いよく傾けて驚いて大量に飲み込む。どうやらペースが遅かった様だ。飲みきれないお酒が首を伝う。


「ハァ、ハァ…せ、先輩。お酒鼻に入るかと…」


息が上手く出来ず荒い呼吸で見上げると、七松先輩は大きな目でじっ、と私を見てきた。
……何だろう?思わず私も見つめ返せば、先輩の視線は私とは合わなくて、あれ、何見て…


ガブ


「えっ!ィキャアッッ!?」

「んー、やっぱわからん」


七松先輩の視線を辿ろうとする前に、先輩は私の首を、か、噛んだ…。思わず飛び退くと後ろに立花先輩が居たらしく抱き留められた。


「な、な、何するんですかぁ…!痛い…」

「すまん!何か、美味そうだったから」

「そ、そんな…」

「ほれ、小平太これをやるから長次と飲んで来い」

「わかった!」


立花先輩が樽を放ればフリスビーを飛び掴む犬のようにキャッチして行ってしまった。
そおっと首を指先で撫でると、くっきりと歯形がついてる…びっくりした。心臓がドキドキ言ってる。本当にびっくりした…。涙が滲んだまま立花先輩を仰げば、顔をうつ向かせて私を見ていた先輩はそっと首を撫でた。


「すまんな。あいつは酔うと野性味が上がるから」

「い、いえ…。直感的な方なので、何となく納得しています…」


もう、朝まで立花先輩に引っ付いて飲んでいようかなぁ…皆の視界から隠れるように立花先輩の服を掴むと、それを理解したのか立花先輩がキョトンとした顔を綺麗に歪ませた。何だその表現。でもその言い回しがしっくり来るよ…だってこの顔の立花先輩は…そうだ、笑顔で私を突き放す時の顔だ…。


「こんな物で、終われると思うなよ?これは飲み比べ大会だからな」

「で、でも…大会って言う割に誰も競ってる感じないですよね」

「お前の判断で決められる事ではない。これは伝統行事だからな。お前はとにかくくのたまとして最後まで飲み続ける様に」


そう言うと私の肩を軽く押して、先輩はくるりと向きを変えた。軽く押されただけなのに私の体はよろけて尻餅をついてしまう。うーん、私も結構酔ってるのかなぁ…。


「ああ、そうだ。あき、そいつらは私達が潰しておいた。まともでないからせいぜい頑張れよ」

「え…」


一度振り返りにこりといい笑顔で言い放ち、立花先輩は潮江先輩達の所へ行ってしまった。がし、と肩を掴まれゆっくりと後ろを振り返る。


「えへー、あき、ちゅーしよ」

「ふ、ふわくん…」


私本当に大丈夫かなぁ…!




back


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -