虫も寝静まる時刻。今日のために進められてきた準備は万端。蝋燭の多く灯された一室でそれは開幕した。
「…えー、いよいよ始まりました。……立花先輩、これ何なんです?」
「喜八郎、いいから読め」
「はあ…。『いよいよ始まりました。年に一度の恒例大会。男が勝つか?女が勝つか?力なんて関係ない!男女対抗飲み比べ大会ー!』……。」
蝋燭の下、四年の綾部喜八郎がそれを読み上げれば静まり返った一室に歓声が響いた。喜八郎、眠そうだなぁ…。私も、眠いなぁ…。あ、目が合った。
盛り上がる忍たま達から離れ、隅で膝を抱えていた私の前に喜八郎はやって来るとしゃがみこんで首を傾げた。可愛いなあ。
「あき先輩、これは何なんです?」
「うーん、私も初めて参加するからよく分かってないんだけど…さっき喜八郎が読んだ通り、毎年恒例で忍たま対くのたまの酒盛りがあるんだよね。きっと喜八郎は来年から参加する事になるよ。五年と六年の行事だから」
「そうなんですね。…あき先輩、大丈夫ですか?一人で」
「うん…大丈夫かなぁ」
今年は、くのたまに六年生在籍者が居ない。更に五年のくのたま達は、いつの間にかこの会を嗅ぎ付けて数日前からおつかいだ任務だと出払ってしまっていた。気付けば学園に残るくのたま上級生は私だけで、こんな事もあるんだなぁと呑気に授業を受けていたんだけど…。
「喜八郎、くのたまとして参加しない?」
「何を言っている。四年の喜八郎に酒を飲ませる気か?体に毒だ」
「あ、立花先輩…」
「喜八郎、手伝わせて悪かったな。もう寝に戻っていいぞ」
「わかりました。それでは立花先輩、あき先輩、おやすみなさーい」
「あっ…行っちゃった…」
喜八郎は立花先輩の解放を得るとさっさと部屋を出ていってしまった…眠かったんだな…。
「あき、お前の働きに期待しているぞ。作法の一員として負けるなよ?」
「立花先輩…と言いつつ負ける気、ないですよね…」
「当たり前だ。男だからな」
はぁ、私だけで大丈夫かなぁ…。でも個人戦だし、この間城の宴会で情報を聞き出すために一人で最後まで残れたしいけるかな。
「よーし、では始めるぞ!代表者前へ!」
食満先輩が仕切り、七松先輩が中央に立つ。皆の視線が私に集まりしぶしぶ立ち上がって七松先輩の前に立った。
「代表者は始めにこの桶の酒を飲みきること。では始め!」
…だ、大丈夫かなぁ。
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