「ふぅ…。この風景もついに見納めかぁ」


塀の上から学園を眺める。
忍術学園の扉を叩いたのはもう懐かしい記憶。私達六年生は今日ついに卒業する。

…って事は。


「ついに…ついに終わる…!兵太夫君のパシリから解放されるんだー!」


両手を高く突き上げて喜びを表した。今日の私はとってもハッピー!

長かった、長かったよこの六年間…。兵太夫君の私への態度は年々加速していき、私も成長してるはずなのにそれを上回る彼の毒舌スキルに私が抵抗を諦めたのはいつの事だったか。
本当に作法委員会は怖い…皆六年生になると狐にでも憑かれた様にドSに目覚めたし。懐かしき立花先輩の生き霊でも居るのではないだろうか。兵太夫君は、昔からそんな片鱗あったけどね…。

しかしそれも今日で終わりだ。今一度喜びに拳を握りしめ表した。

卒業後の不安?ないない!未来は明るいよ!!私、就職も決まったし。少し寂しいのはあるけれど、それよりも兵太夫君から解放される事の喜びの方が断然大きいです。
まぁ小さい頃は兵太夫君の事を好きだった黒歴史もあるけれど、あれはまだ兵太夫君も可愛かったし…からくりの試検体にされたり重労働させられたりパシられたりしてたけど。あれ、昔も酷くない?何で好きになったんだ?


「あき」

「あ…兵太夫君…」


スタッとどこからか現れた兵太夫君は、手にお花を持っていた。きっと後輩に貰ったんだろうなぁ。


「ふふ」

「?何笑ってるの」

「いやぁ、今ね、ちょうど小さい頃を思い出していたから。兵太夫君は、変わったねぇ」

「そうかな?」


兵太夫君は、身長がすごく伸びた。昔は私の方がちょっと大きいくらいだったのに。元々綺麗な顔をしていたけど、年を重ねるに連れて何て言うか…少しタレ目で色気の半端ないイケメンになった。イケメンでちょっと意地悪で冗談も通じる彼はくのたまの後輩達の遊ばれたい男性堂々一位だ。
兵太夫君は私を見つめ柔らかく微笑む。この詐欺笑顔にも何人のくのたまが心奪われたか…。私は知っている。彼が成長と共に身に付けた腹黒い心の内を綺麗に隠す行為だとな。


「兵太夫君は丹波へ行くんだっけ」

「そう」


彼の就職先は直接聞いていないけど、くのたまの噂で地元へ戻ると聞いたからそうなんだろうと思った。


「寂しくなるね」


社交辞令ですけどね?一応言っておこう。心のなかはうふふあははで満面お花畑でいると、兵太夫君はニコリと笑んだ。この詐欺笑顔に何人のくのたまが心奪われたか。大事なことなので何度だって言う。兵太夫君は私の言葉にニッコリと愛想の良い笑顔で口を開いた。


「寂しくなんてならないよ。冬休みに戻った時に、丹波へ家を建てておいた」

「ふぅん…?」

「本当に阿呆だな…。僕とあきの家だよ」

「え?」


え?



いや、え?



「いや…私は、大和で就職決まってるよ…?」

「うん。あれね、断っておいたよ?」

「…ちょっと待ってくれる?」

「うん」


兵太夫君は、彼と私の家を建てたって言う。そして私の就職を断ったって言う。はい、理解しました。私はゆっくりと兵太夫君の襟元を掴んだ。


「お…いいい……!!!何してくれちゃってんのおおおお!?!??」

「え?だって寂しくなるって言うから」

「いやいやいや!!それにしては用意周到な事してくれちゃってるからね本当に!!わ、わた、私がどんだけ頑張って就職活動したと思ってんだよぉ…!!」

「なかなか雇ってもらえなくて、津々浦々必死にやってたなぁ。お疲れ様」

「へ、兵太夫ううううぅぅぅ!!!!!!」


ぐらぐらと揺さぶっても、兵太夫君は爽やかに笑ったまま。こいつ全然悪いと思ってないいいい!私は諦めて手を離し、がくりと項垂れた。


「わ、私の未来が…六年間の生活が…」

「やだなぁ。無駄になんてならないのに」

「?」


何を言っているのかわからない。不思議に見上げれば、兵太夫君はしゃがみこんで頬杖をついた。


「あきの六年間は、僕のものだ。これからだってそうだよ?」


「…い、いや。そんなんで納得しないからね」

「チッ。昔のままでいればよかったのに…」

「へ、兵太夫君んんん!!!!」


ほーらこれが本性なんだからな!!皆ー!見てよーー!!
涙目の私に、兵太夫君は立ち上がると腕を組んでふん、と鼻を鳴らした。


「まさか僕の行動の意味、わかってないの?」

「普通に考えれば嫌がらせだと思うんだけど…」

「…それ、本気で言ってる?」


ギロリと睨まれて気まずくて目をそらす。
…意味なんて、わかるよ、そのくらい。私は阿呆だったけど、もう十五なんだから。だけど、兵太夫君だから、いまいち本気で信じる気がしない。


「兵太夫君は、その…私が、すき、なの?」

「…あのね、僕はあきの事、初めから好きだったよ」

「う、嘘…」

「嘘じゃない。だから、さっき言った言葉だって本当だ。あき、僕と一緒に生きて」


そう言って私の目を見つめる兵太夫君の顔は真剣で、昔の恋心が蘇るように心臓が動き出した。

本当は、今だってずっと好きだったよ。
彼が私の事を好きだなんて到底これっぽっちも思えなかったから、これから訪れる別れに恐怖して心の底に押し込めていた。滲んでいた涙が思わずこぼれる。


「わ、私も…兵太夫君と、一緒に生きたい!」

「…よかった」


ホッとした様に笑う兵太夫君は綺麗で、私の胸は高鳴った。





「じゃあ、家の新作のからくり、試してね。まだ試運転してないから調子気になるし」





…ち、違う意味で心臓がドキドキするぅ…!!!









注文が多い唐繰屋(は、私の旦那様?)
end
丹波//兵庫県
大和//奈良県

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