「ねぇねぇ兵太夫君。ボーロ作ったんだけど、食べてくれ」
「嫌だよ」
「な、何でー!?いっつも私、手伝ってるじゃん!!!たまには私の事手伝ってよー!!!」
「どうして何か入ってるってわかってて、手伝わなきゃなんないの。やだなぁ」
そんな事もわかんないの?って兵太夫君はやれやれのポーズをした。お、おおお前が言うなぁ…!!!いつも!何かされるってわかってて部屋に入ってく私を見てるでしょ!??!!!
「ぅうっうっ…どうして私はこんな奴を…」
「あ、あきちゃんやっぱり来てたんだ」
「さ、三治郎くぅん…!」
床に手を付いてうなだれていたら、廊下からひょこっと三治郎君が現れた。
「三治郎、やっぱりって?」
「今そこで、しんべヱとおしげちゃんが一緒に居て授業で作ったボーロを渡さないといけないって言ってたから」
「ほら、やっぱり何か入ってるんだ!」
兵太夫君が得意気に私を見下ろしてくる。入ってる、入ってるよそりゃ…。グッと唇を噛んで立ち上がると、三治郎君に袋を押し付けた。
「っ…もう、いいもん!!三治郎君にあげる!!!!」
「えっ!?僕っ?」
「三治郎君、お願いします!これ食べてください!!」
「で、でも…いいの?僕、おしげちゃんから聞いたけど…」
「………いいの。だからお願い!」
返事も聞かずにそのまま走って逃げた。兵太夫君なんて、もう、知らないもん!
「あー、行っちゃった…。ちょっと、兵太夫いいの?」
「いいよ、だって、くのたまの毒入りでしょ?僕にそんな物持ってくるなんていい度胸してる」
「はぁ…違うよ」
「?じゃあ何なの」
「さっき、おしげちゃんに聞いたけど。今日の授業、作ったボーロを好きな人にあげるんだって。くの一は度胸も大事だからって」
「えっ…」
「あーあ。あきちゃん勇気出したのにかわいそう。僕食べちゃおうかな?」
「ぐすっ、ううっ…」
あてもなく走り続けて綾部先輩の穴に落ちた。もう嫌だ。体育座りをして突っ伏していると視界も真っ暗で、音も聴こえないし暗闇に閉じ込められたみたい。
兵太夫君、くのたまからだからって毒が入ってるって決めつけるし。私今まで一度も毒入りの物なんてあげた事ないのにぃ…!!何か入ってるって?そりゃあ、入ってるよ。愛がなー!!
「兵太夫君なんて、表情乏しいし人の事見下してくるし私女の子なのに召使いの様な使いっぱしりだし言うこと聞かないとすぐ怖くなるし」
はぁ。ため息が出る。なのにどうして好きになっちゃったんだろう…。
「…ずいぶん言うなぁ」
「えっ!?あ、兵太夫君!!」
突然声が聴こえて慌てて顔を上げると、ひきつった笑い顔の兵太夫君が居た。
「これ」
「あ、それは…私のボーロ?」
「食べてあげてもいいよ」
「ほ、本当に!?」
嘘っどういう風のふきまわし!?でも食べてくれるって言った。嬉しい!
嬉しくて目を輝かせていると、兵太夫君は困った顔で笑った。
「あきってさ、本当に馬鹿だしすぐに騙されるし言いくるめられるし人を信じるしお人好しだし思ってる事顔に出るし本当に阿呆だし」
「ひどい!」
「でも」
兵太夫君が言いながら差し伸べた手を掴む。何とか必死に這い出ると、力尽きて仰向けに倒れた私を上から見下ろした。
でも、なに?ドキドキドキと心臓が早くなる。兵太夫君は綺麗に笑った。
「でも、いつも僕のからくり凄い手伝ってくれるし…本当に使い勝手がいいよ」
「そ………それは思ってても言ったらダメな奴ーーー!!!!!」
少し期待してしまった私はやっぱり阿呆だった。
「あーあ。あきちゃん勇気出したのにかわいそう。僕食べちゃおうかな?」
「…駄目だよ」
「どうして?」
「だって、あれは僕のだもん」
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