「さ、三治郎君!たすけて!!」
「あきちゃん、どうしたの?」
「兵太夫君が、私を実験体にするんだよぉー!!!」
「あぁ…」
いつもの如く出会い頭に兵太夫君に呼び出しをくらい、忍たま長屋へと向かった。本当に兵太夫君は挨拶も出来ないんだから…将来が不安だよ…。
部屋の前で待ち伏せていた兵太夫君に近寄れば、「ちょっと部屋に入ってくれる?」その台詞、もう今までに聞きあきるほど聞いてきた。そして、その意味を嫌と言うほど味わってきた。
部屋のからくりを更新すると私で試運転するのだ。
「いたいた、あき。どうして逃げるの?」
「兵太夫君のからくりのえじきになりたくないからだよ!!」
「あき、餌食なんて言葉知ってたのか。賢いなー」
「え、そ、そう…?」
「うん。僕はそんな、賢い子が掛かってしまうようなからくりを発案したいだけなんだ。でもあきが嫌だって言うなら仕方ないよね…からくりの向上は試作、運転の繰り返しで出来るけど、しょうがない」
「あう…そんな…。ま…待って!兵太夫君、私やるよ!!」
「えっ…」
「そんなに真剣にからくりの事を考えていたなんてわからなくて…てっきりことごとく罠にはまる私を見て楽しみたいんだと思っていたから…」
「あき、やだなぁ。そんな訳ないだろ?だけど、ことごとくなんて言葉知ってたのか。やっぱりあきって賢いなー」
「そう、かな?えへへー」
「よしっ!じゃあ行けー!」
「わかったー!」
びっ!と指差した兵太夫君に頷いて逃げてきた道を戻る。こんなに研究熱心な子見たことないよ。きっと兵太夫君は、将来皆が想像も出来ないような不思議なからくりを作り出したりする人になるんだろうなぁ。その手伝いが出来るって思うと、何だか自分がとても誇らしく思えた。
待っててね、兵太夫君!!
「あーあ…。兵太夫、またあきちゃん騙すような事して」
「騙すなんて、人聞きが悪いなぁ。からくりの向上に試作・運転が必要なのは本当だもん」
「でも、罠にはまるあきちゃん見て楽しんでるのも本当でしょ」
兵太夫はふふん、と笑う。
「だけど、こっちの考えてる事を読んでるなんて、本当に賢くなってるよ」
そんな会話を知らない私はからくりの止まない部屋で絶叫していた。
ちなみに兵太夫君はいつもあの手この手で私を丸め込んで実験体にする。私は終わってから前回もそうだったと気付くのだ。私は本当に阿呆だった。
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