2014/03/10

拍手で頂いたコメントから妄想したやたらと長くなった純情っぽいのにしたかったのに遊び人になった尾浜君




初めて見た時から好きだと思った。柔らかな空気を纏う笑顔が好きだった。きっと話すこともないままこの恋は消えるのだと思っていたけど。


「あ、ごめん。肘当たっちゃった」

「い、いいえ…」


少し動くと体が触れるくらい近くに、尾浜さんが居る。俯いた顔を覗き込むように謝ってくれたのに緊張して目も合わせられなかった。箸置き見てる場合じゃない…!

今日は定例の親睦会で、いつもの様に課長に引っ張られてやって来て適当にやり過ごそうと気を抜いていたら隣に座った人物に耳鳴りがするほど心臓が速まった。さっきから同じ部署の後輩に話し掛けられても体の左側がしびれてるみたいにピリピリして話が頭に入ってこない。それよりも私の耳は尾浜さんの声を拾う事に専念しているようで自分の体なのに上手く扱えなかった。
きっとこんなチャンスもう来ない。尾浜さんと話が出来るのは今だけだ。付き合いたいだなんて思ってはいないけどせめて話をしてみたかった。叶うなら彼の口から私の名前を呼んで貰えたら、それだけできっとこの先の人生幸せに生きていける気がする…。だけど臆病な性格が災いして話し掛けるどころか横を向くことすら出来ない。これはもうお酒の力を借りるしかない。立て続けに三杯、一息に飲み干す勢いで流し込めば後輩が驚いた表情で私を見ていた。お願いだから今だけはそっとしておいて。


「どうしたの、何か嫌な事でもあった?」

「!」


ちょんちょんと肩を叩かれて優しい声がした。ハッとして見れば尾浜さんが愉快そうに笑っている。私に向けられた笑顔に頬が熱くなる。


「嫌な事、ではなくて、」

「ふむ」

「人生の岐路というか」

「ほうほう、一大事だな」


気付くと酔っていたのか、たどたどしく会話が出来ている事に他人事のように驚く自分がいた。少しだけ体を私の方に向けて真剣に聞いてくれるその姿勢にときめく。こんな少し話をしただけで、また好きになってしまった。くらりとしたのは恋によるものなのか。くらくらしたまま呟いた言葉は自分でも知らない内に信じられない位簡単に私の本心を暴いていた。



「私、尾浜さんに憧れています」










「……ん…」


騒がしい。
意識が戻るにつれて耳に飛び込んでくる音量は大きくなっていく。そう言えば今日は親睦会に来てたんだった…。まだぼんやりする頭のまま眠ってしまった事に気付くとうっすらと瞼を上げる。そう言えば私一体何に凭れて…


「尾浜ー、役得だなぁ。俺と代われよ」

「駄目ですよー、潰れちゃった子で遊んじゃ」

「………!!?」

「あ、起きた」


オハヨー、とにっこり笑顔で笑いかけられて飛び起きる。わ、私今、尾浜さんの膝で……!?背広を掛けてもらっていたみたいでパサリと落ちた。慌てて会場の時計を見るとどうやら20分近く眠っていた様だった。もう一度尾浜さんを見ると頬杖をついてニヒヒ、と笑いかけられる。……し、しにたい!


「す、すいませんでした!!!本当に、先輩に私、あの、す、すいませんでした!!!」

「いーよいーよ。お酒飲めないのにあれだけ飲んだらしょうがないでしょう」


しんべえから聞いたよ、とニコリと笑いかけられて福富君の居た向かいの席を見たけど彼の姿はもうなかった。と言うより総務の人達は皆席を離れて移動してしまったみたいで誰もいない。ついでに言うと広報部の方達も尾浜さんを置いて皆移動したみたいだった。


「ほ、本当にごめんなさい!せっかくの楽しい飲み会が!」

「もー、そんな気にしなくっていいのになぁ」

「で、でも…っ」


勢いよく下げた頭をまた勢いよく上げたせいか視界がぐらりと揺れる。そう言えばお酒たくさん飲んだんだった…っ。目が回る感覚が怖くて固く目を閉じると倒れそうになる体を暖かな温度に受け止められた。


「おーっと。頭揺らしちゃダメだよ。ほらしんどいなら凭れてていいから」

「い、いえっ、しんどくは!」

「いーからいーから」


グイッと頭を尾浜さんの肩に押さえつけられて抱え込んだ右手でポンポンと頭を撫でられる。ど、どうしよう…幸せすぎて泣きそう…。ぎゅう、と手を握り締めるとそれを尾浜さんの反対の手が包んだ。優しく手を解かれて、尾浜さんの手が私の手に重なる。そしてそのまま指と指とが交差して絡んだ。こ、これは恋人繋ぎ……っ!
一体どういう事なのか追い付けなくて固まっていると頭を撫でていた手が降りていきするりと私の体をなぞっていく。思わず膜の貼る潤んだ瞳で見上げれば尾浜さんは優しく笑いかけた。


「ねえ、はやく仲良ししたいね」


 


言った事覚えてないvs持ち帰る気満々






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