2014/03/07
と言う長い前振りの後の奥さんのご飯が不味くって固まる潮江くん。
「お、おい…泣くな」
「う、うう…だって、文次郎くん、嘘ついて食べて、」
しくしくと俺に背中を向けて泣き続けるこいつにじゃあ正直に言ってたらそれはそれで泣いただろうがとは流石に言えなかった。
一緒に住むようになってまだ三日だ。初めは片付けだの何だので忙しく握り飯を食べて過ごしていたから気付かなかったが、こいつは壊滅的に料理が不味い。一口食べて咽にまとわりつく刺激に一体何を入れたのかと思う。まさか毒を…こいつも元くのたまだが…。しかしニコニコと俺の反応を伺ってくる姿にその思いも霧散した。流し込むように平らげた俺に嬉しそうにはにかんで、自分も口を付けてからはずっとこの調子だ。
「なぁ、嘘をついたのは悪かったよ。だから怒るなよ…」
「ちが、違うの」
「は?」
何だ、違うのか?じゃあ一体何を怒っていると言うのだろうか。ごしごしと目元を擦って泣き止もうとする後ろ姿をぼんやりと眺める。女ってのは、やっぱりよく分からん…。そっと控えめに振り返った横顔は俺の顔を見ると一層泣きそうに歪む。
「わたし、文次郎くんに嘘吐かせちゃって、夫婦は隠し事なしだって言ったのに、だから、ごめんなさい…」
また背中を向けて顔を覆ってしまうのを呆然と見つめた。なんだ、つまり嘘ついて食ったのを怒ってるんじゃなくて嘘吐かせて悪かったと謝っているのか、こいつは?
………はぁ?
「やってらんねぇ」
背中がビクリと揺れる。声を押し殺している
のだろうがっひ、と小さくしゃくりあげるのが聞こえて、俺は迷わずその背中を抱き締めた。
やってらんねぇ、馬鹿馬鹿しい。
けど、そう思う以上に愛おしい。
「っ…文次郎く」
「阿呆め…そんな事ばっかり言ってると、食っちまうぞ」
驚きで泣き止んだのか涙に濡れる瞳で見つめられてムクムクと下心が顔を出す。どうせ顔を赤くして逃げるだろうと振り解ける力で抱きしめていれば逃げるでもなく俺の腕に手を添えて
「少しでも、そういう風に見てくれたなら嬉しい…」
理性。理性はどこに落ちてるんだ。
仲良しを台詞として言わせようと思ったら言ってくれなかった潮江くん。