虎ちゃんにドライブに誘われた。しかも虎ちゃんの誕生日の日に。
私は精一杯背伸びしておしゃれをした。ささやかながらプレゼントも用意した。



「あぁ、楽しかった。」



いつもの海岸が見える駐車場に車を停めてそう呟くと、運転席の虎ちゃんがシートベルトを外した。



「それはよかった。どうだった、俺のハンドルさばき。」

「うん、かっこよかったよ。」



そう言うと、虎ちゃんはいつものように微笑んだ。
辺りはすっかり暗くなっていて、夜の海と小さな星が見える。



「虎ちゃん。」

「何?」

「お誕生日おめでとう。」

「・・・ありがとう。」



虎ちゃんはそう言うと私の頭を撫でた。そしてそのまま手を滑らせて私の唇をなぞる。



「でも、赤い口紅は碧にはちょっと早いかな。」

「・・・・・また。」

「ん?」

「虎ちゃんは、私の事、子供としか、見てないんだね。」



思わず口に出してしまった事を後悔した。そんな事、今更だ。虎ちゃんは、私を・・・・異性としてなんて見てくれない。



「・・・俺が、君を?」

「・・・・うん。」



虎ちゃんはそう言うと、少しだけ悲しそうな表情をした。すると虎ちゃんは私の唇にあった手を私の頭の後ろに移動すると、ゆっくりと顔を近づけた。



「碧。」

「と、虎ちゃん?」

「俺は一度だって、碧の事子供として見た事なんてないよ。」

「え?」



驚く私に虎ちゃんは唇を押し当てた。キスされてるんだと気づいた時には何度も何度も唇が重なっていて、体に力が入らなくなっていた。
ちゅっ、という音を立てて唇が軽く離れる。今だ至近距離にある綺麗な虎ちゃんは少し怒っているようにも見えた。



「俺がどれだか我慢してきたか教えたら、碧は俺の事嫌いになるかもしれないな。」

「虎ちゃん・・・。」

「好きだ、碧、俺だけのものになって。」



虎ちゃんは囁くようにそう言うとまた私にキスをする。気づいたらシートに押し倒されるような形になっていた。また何度も何度も重なる唇に涙が出てくる。
虎ちゃんは嫌いになるかもと言っていたけど・・・・・私は虎ちゃんの背中に腕を回すと、力なく服を掴んだ。
そんな私に驚いたように虎ちゃんが唇を離した。



「いいよ。」

「碧・・・。」

「虎ちゃん、大好きだよ。」

「・・・いいの?」

「うん。」



私が頷くと、虎ちゃんは泣きそうな顔で笑った。そして私を力強く抱きしめた。
ダビ君が言っていた通りだった。虎ちゃんの糸にからまったら、逃げられない。



「引っ越しは、もうちょっと後にするよ。」



私を抱きしめながら虎ちゃんがそう呟いた。



「どうして?」

「君が高校卒業するまでに他の奴にとられるかもしれないから。」

「自分で言うのもなんだけど、私そんなにモテないよ。」

「碧は十分可愛いよ。」



そう言って手を取られると、虎ちゃんはそのまま私の手の甲にキスをした。




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