小鳥遊碧、バイトを始めました。
バイト先は高校の駅前にある小さい喫茶店。コーヒーがおいしいと評判のお店。
私はウエイトレス。可愛い制服付きだ。
「よくサエさんが反対しなかったね。」
そう言うのは天根ヒカル君。通称ダビデ君。私は縮めてダビ君と呼んでいる。
そんなダビ君はチョコパフェを頬張りながら、お客さんのいなくなったカウンターで私と話をしていた。
彼は虎ちゃんの部活の後輩にあたる人でもあって、こんな外見なので最初は怖い人かと思ったけどとてもいい人だ。年上だけど話やすい。
「だって、言ってないもん。」
「バイトの事?」
「うん、この間ものすごい反対されたから言わなかったの。」
「サエさん碧の事となると過保護だから。」
そう、この前バイトの話をしたら虎ちゃんだけに猛反対をされた。家族も虎ちゃんのお姉さんも賛成してくれたのに。何を言っても「ダメだ」の一点ばりだった。
なのでこっそりと履歴書を書き、こっそり面接に行き、こっそり働いている。ダビ君がいう様に虎ちゃんは過保護だ。
「虎ちゃんには学校で委員会をやってるって嘘ついてる。」
「ふーん。でもまぁ、気を付けろよ。」
「どうして?」
「サエさんの糸に絡まったら、逃げられないから。」
「?」
「分からないならいい。」
「あっ、何か飲む?」
「いや、いい。そろそろだと思うし。」
「そろそろ?」
ダビ君はそう言うと、伝票を持って立ち上がった。そしてレジで会計を済ますと、私の頭をぽんぽんと叩いた。
「まぁ、頑張れ、いろいろと。」
「うん、ありがとう?」
いろいろ?
ダビ君はそう言うとお店のドアを開けた。そんなダビ君と入れ違うようにして、新たなお客様がやってきた。
「いらっしゃいま・・・・・。」
入ってきたお客様の姿を見て私は唖然とした。
「やっぱりいたんだ、サエさん。」
「途中から気づいてたんだろ、ダビデ。」
立ち止まったダビデの肩を数回叩いてやってきたのは、なんと虎ちゃんだった。驚きのあまり声も出せずにいると、虎ちゃんは怖いぐらいにっこりと微笑んだ。
「席、案内してくれる?」
「はっ、はい!!」
ダビ君がドアを閉めながら口パクで「頑張れ」と言ったのが分かった。ダビ君虎ちゃんがいること知ってたの!?
私は冷や汗をかきながら虎ちゃんを席に案内する。
「め、メニューです・・・。」
「ありがとう。」
「・・・・・。」
「・・・・・・俺の言いたい事、分かるよね?」
「・・・・ごめんなさい。」
「ここのバイト何時に終わるの?」
「今日は4時半。」
「終わったら送るから、待ってて。」
「・・・・うん。」
虎ちゃんはそう言うと私の手を取ってぎゅっと握った。それだけで虎ちゃんがどれだけ心配してくれていたのかが分かって、なんだか本当に申し訳なく思った。
あぁ、やっぱり私虎ちゃんが好きだ。
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