私には歳の離れた幼馴染がいる。
彼の名前は佐伯虎次郎。皆からはサエさんと呼ばれていて、無駄に男前、らしい。
私は彼の事を虎(とら)ちゃんと呼んでいる。
虎ちゃんの家は私の家の隣で、小学校に上がる前から既に一緒に遊んでいた。虎ちゃんにはお姉さんがいて彼女と虎ちゃんと私でいつも遊んでいた。
虎ちゃんが小学校に入ってからは虎ちゃんを通してもっといろんな人と遊んだのを覚えている。




「ねぇ、虎ちゃん。」

「何、碧?」



そして私の部屋と虎ちゃんの部屋は近かった。家と家との間の木を挟んでお隣で、木を使えば部屋に行ききもできた。
そして今日も部屋の小さいベランダから顔を出していると、虎ちゃんもいつも間にか顔を出していた。そんな虎ちゃんに尋ねる。



「車の免許取ったって本当?」

「あぁ、うん。本当だよ。」

「いいなぁ、大学生。」

「碧だってすぐだよ。」



虎ちゃんは大学1年生になった。車の免許も最近取ったらしく、大学生ライフを楽しんでいるみたいだった。
私はと言うと高校に入学したばっかりの一年生。一駅先の女子高に通っている。



「今度休みの時、姉さんに車借りてドライブにでも連れってあげるよ。」

「本当に?」

「本当。」



そう言って虎ちゃんは手を伸ばすと、私の頭を撫でた。そんな彼を見れば私の知らない大人の表情で笑っていた。そんな笑顔を見ると、嫌でも年齢差を感じてしまう。



「じゃぁ、そろそろおやすみ。明日も学校だろ?」

「虎ちゃんは?」

「俺も明日は授業があるんだ。」

「・・・・・・まだ、眠くない。」

「・・・仕方がないなぁ、碧は。」



虎ちゃんはそう言って苦笑いすると、私のおでこに優しくキスをした。
小さい時からのよく眠れるおまじない。
おでこからやわらかな虎ちゃんの唇が離れると、もう一度私の頭を撫でた。



「おやすみ。」

「・・・・・おやすみなさい。」



そして頭をぽんぽんとすると虎ちゃんは部屋に戻っていってしまった。
残された私はおでこに残った温もりに寂しさを感じながら、カーテンが閉まった虎ちゃんの部屋を見つめ続ける。
あぁ、どうしたら好きって気持ちを伝えられますか?
見上げると真っ暗な空しかない。小さな星も見えなかった。




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