突然ですが、迷子になりました。
今日はヒカル君の誕生日。二人ともバイトで終わってから食事でもしようという事になったんだけど、いつもと違う所で待ち合わせ。時計を見ればとっくに過ぎていた。わぁどうしよう・・・・・とりあえずヒカル君に連絡をしようとケータイを取り出すと、タイミングよくヒカル君から電話が。慌てて出ると「もしもし」と言う前にヒカル君の声が聞こえた。



『今どこだ?』

「えっ、えっと・・・・どこでしょう。」

『・・・迷ったのか?』

「・・・・うん。」



立ち止まって小さくそう言う。言葉が返ってこなくて、胸が痛む。折角のヒカル君の誕生日なのに・・・・。



『・・・分かった。』

「ごめんね。」

『お前はそこで待ってろ。迎えに行く。』

「え?」

『どこにいる?』

「え、えっと・・・・。」



ヒカル君の言葉に辺りを見回す。とっさに目に飛び込んできたショーウィンドウの飾りに目がいった。



「ハート。」

『ハート?』

「うん、大きいハートの風船が飾ってあるショーウィンドウの前に、いるの。」

『・・・分かった。』



ヒカル君がそう言うと電話が切れた。
ショーウィンドウに近づいてハートの風船をぼんやりと眺める。ガラス越しに映るなんとも情けない自分の姿も一緒に眺めた。誕生日のプレゼントも買っておしゃれもしてきたのに・・・・本当に情けない。



「雪!」



我に返って声がした方を見れば、ヒカル君が走ってやってくるのが見えた。やっぱり人ごみの中でもヒカル君はとっても目立つ。
手を上げる暇もなくあっという間にやってきたヒカル君は私の前に来るなり私を抱き寄せた。



「・・・ヒカル君。」

「よかった、何かあったんじゃないかって心配した。」



ぎゅっと抱きしめられて、恥ずかしさよりも嬉しさがこみ上げてきた。体を離してヒカル君を見上げれば、こめかみにキスされた。
流石にこれには照れる。



「ごめんね。」

「・・・・・やめた。」



ヒカル君は私の顔をじっと見てからそう言うと私のあいている左手を取った。そして歩き出す。
もしかしなくても、怒ってる?



「ヒ、ヒカル君?」

「外で食べるのやめて、何か買って俺の家で食べよう。」

「・・・やっぱり、私のせいで遅れちゃったから怒ってる?」

「怒ってはいない。けど、まぁ・・・・お前のせいではあるな。」

「えっ。」



ヒカル君はそう言うと私の手をジャケットのポケットにしまった。暖かい手と暖かいポケット。
見上げれば少し赤くなっているヒカル君がいた。



「今年は家でぬくぬくしながら雪に誕生日祝ってもらいたい。」



視線を合わせずに小さくそう言ったヒカル君はなんだか可愛かった。
私は大股でヒカル君のあるくスピードについていく。少し前を行くヒカル君の表情はここからじゃ見えないけれど、さっきのままだといいな。
ヒカル君の家に着いたら真っ先に「お誕生日おめでとう」と言おう。そしてプレゼントも上げて、今以上顔を赤くさせてやるんだ。そしてぬくぬくと二人一緒の時間を過ごすんだ。ヒカル君の大きな背中を見つめながら私は秘かにそう計画を立てた。


2012 Birthday.

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