私と長太郎君とのは歳の差がある。と言っても一歳で一学年、実際誕生日だって数か月なんだからほぼ同い年に等しい。と、私は思っている。
「でも一学年違うのは、大きいですよ。」
そう言ったのは紛れもなく長太郎君であった。
考えろ、私。ここは確か大学だよね。大学部ですよね。そんな大学部の校舎に何で高等部の制服を着た長太郎がいるんだ。
「え、何でここに?」
「会いたくなったので、来ちゃいました。」
えへへと微笑む長太郎君は可愛い。いや、今はそうじゃなくて・・・・。
長太郎君は長い脚であっと言う間にやってくると、私の手を取った。
「今日模擬テストだって言ってなかったっけ?」
「はい、終わってすぐに来ました。」
「よく、迷わなかったね。」
「親切に道を教えて下さった方がいたんで。」
そう言って笑う長太郎君。多分親切に、というのは確実に間違っていると思うよきっと。
言葉には出さないで代わりに長太郎君の手を握り返すと、空いている手で私の鞄を取り上げた。
「荷物持ちますよ。」
「大丈夫だよ。」
「でも、重そうですよ。」
「プリントが多いだけで、今日は授業もテキスト使うのあんまりなかったし。」
「・・・・いいなぁ。」
長太郎君はそう呟くと少しさびしそうに笑った。彼は私から視線を私の鞄に移すと、握った手の力を強めた。
「俺も早く、高校卒業したいです。」
「もうちょっとじゃない。」
「全然、ちょっとじゃない。」
語尾を強めて言った長太郎君は、私の手をそのまま引いた。私はあっという間に長太郎君の胸にすっぽりと収まる。
少し早い心臓の音、久しぶりに聞いた気がする・・・・。
「俺不安なんです。雪さん、噂になってるって気づいてますか?」
「え!?私何かやらかした!?」
「大学院に可愛い先輩がいる、ってもっぱらの噂です。」
・・・・・長太郎君には悪いけど、多分その噂は私ではない。絶対。
でも大きいからだで私を抱きしめてくれる大好きな長太郎君を可愛いと思ってしまった。
「それを言うなら、私だって心配だよ?」
「え?」
「長太郎君、老若男女に大人気だから。」
「老若男女って・・・・。」
「女の子にもそうだけど、長太郎君が大好きな宍戸にだって心配になるんだから。」
「えっ、宍戸さんにも!?」
「だから、同じ。」
私はそう言うと長太郎君の大きな背中に腕を回した。
付き合ってからと言うもの、年上らしい所を彼にあまり見せていない気がする。しかし私だってたまには、年上らしい事もしなきゃね?
「雪さん。」
「長太郎君。」
「おい、お前ら。」
そんな長太郎君と私に聞きなれた声が聞こえてきた。声がした方を見れば、ものすごく呆れた表情をした宍戸がいた。
「あ、宍戸さん。」
「宍戸。」
「こんな往来で、いつまでそうやってるつもりだ?」
宍戸のその言葉に我に返った。気づけば痛いほどの視線を浴びている事に。
うわ、超恥ずかしい。顔に熱が集まるのが分かる。
私は急いで長太郎君から離れると、まだ呆れ顔の宍戸がため息交じりにこっちにやってきた。
「ったく、激ダサだなお前ら。」
「宍戸、まだそれ使ってるんだね。」
「うるせー。ったく、噂は本当だったみてぇーだな。」
「えっ、噂!?」
「なんでもねーよ。」
宍戸はそう言うと、私から長太郎君に視線を向けた。そして挨拶をする長太郎君の背中を思いっきり叩いた。
「なぁ、日吉。高等部でもあの噂広まってるってマジなん?」
「そうみたいですね、どうでもいいですけど。」
「大学部と高等部ののバカップルってあいつらの事やろ?」
「でしょうね。」
「しかもその噂に気づいてないの当人の二人だけやってのも、おもろいなぁ。」
「・・・忍足さん、何しに来たんですか?」
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