手塚に彼女ができたらしい。
そんな噂を耳にしたのはつい先日で、今日一緒に行くはずだった夏祭りはどうなるんだろうとふと思った。
私と手塚はお隣同士でいわゆる幼馴染であった。連絡を入れようと思えばできるが、きっと部活も忙しいだろうし、それ以上に私から連絡するのが嫌だった。
そして何の連絡もないまま浴衣に着替えて前から約束していた集合場所に向かう。鼻緒が足の指の間で擦れて少し痛かったが無視した。
その場所に着くと、まだ集合の時間まで5分以上もあるのに手塚の姿があった。しかも浴衣姿。思わずその姿に見とれていると、手塚が私に気づいた。



「早いな。」

「そう言う手塚だって。」

「俺はいつも10分前には来るようにしている。」

「流石生徒会長様。」

「・・・浴衣だな。」

「手塚もそうじゃない。」

「そう、だな・・・。」

「ちょっと早いけど、行こうか。」

「あぁ。」



私たちはそう言って歩き始めた。やっぱり足が少し痛いけど無視。ちらりと隣の手塚を見れば、いつものように歩いている。
境内に入ると屋台や浴衣を着た人たちであふれていた。途中で手塚が綿あめを買ってくれた。お返しにと私は手塚にリンゴ飴をあげた。
貼られたチラシを見れば小規模だが花火も上がるらしい。



「ひまわり。」



名前を呼ばれて振り返ると、手塚はなんとも渋い表情をしていた。



「どうしたの?」

「・・・・・・・。」

「手塚?」

「・・・・付いてこい。」



手塚はそう言うと私の手首を掴んだ。そして人ごみをかき分けて人気のない小さい公園に私を連れてきた。
そしてベンチを見つけると、ようやく私の手首を離した。



「座れ。」

「え?」

「そんな足で歩くのは辛いだろ。」



手塚は私を無理やり座らせると、ハンカチを取り出した。そして近くの水道で濡らしてまた戻ってくると私の前にしゃがむと、私の下駄を脱がせた。
見ればさっき気になっていたけど無視していた親指の指の間の皮がめくれあがっていた。



「足を引きずっているとは思っていたが・・・・。」

「いたぁ・・・・。」

「待ってろ、絆創膏を貼る。」



手塚は私の足に触れると、慣れた手つきで濡れたハンカチで傷口を拭いた。少ししみるけど、我慢・・・。そして手塚はそのまま私を見上げる。



「帰ったらもう一度消毒しておけ。」

「え、大丈夫だよ。これで。」

「ダメだ。」

「・・・・はーい。」




そして絆創膏を貼る。そう言えば小さい頃も私が怪我すると手塚がこうやって絆創膏を貼ってくれた気がする。



「・・・・・ねぇ、手塚。」



私は息を吸い込むとずっと気になっていた事を聞く事にした。



「何だ?」

「何で彼女とじゃなくて、私と今日来たの?」

「・・・・・・・・。」




・・・・・何で手塚は私の隣で一緒に歩いているんだろう?私との約束なんか断って彼女と一緒に行けばいいのに。心の中だけでそう続けた。
手塚は黙ったまま眼鏡を上げると、いつものように私を見つめた。



「お前との約束の方が、先だったからな。」

「普通・・・普通、こういうのは、彼女と、来るもんだよ。」

「そうなのか・・・・。」

「そうだよ、何で、何で断らなかったの?」

「・・・・・泣いているお前を放ってはおけないだろ。」



気づいたらぽろぽろと涙がこぼれていて、ぼやけた手塚が困ったような顔をしていた。でも、笑っている。
私はそんな手塚に抱き着いた。
・・・・何で私はこんなに手塚が大好きなんだろう?



「馬鹿。」

「・・・。」

「手塚の、大馬鹿・・・。」

「・・・・そうだな、大馬鹿だ。」




手塚は抱きしめてはくれなかった。代わりに私の頭をぽんぽんと撫でた。
小さい頃泣いた私をあやしていた時みたいに。
涙は止まるどころか次々に出てきて私は一層手塚にしがみついた。遠くから聞こえた歓声とと共に夜空に大きな花が咲いた。私はそれを見づにただただ手塚の肩で泣きじゃくった。
・・・手塚も大馬鹿だけれど、私の方がもっと大馬鹿だ。




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