夏休みだけれど、部活はある。それはどこの学校でも同じだろう。
園芸部である私もそうだ。
運動部が有名な私の学校にだって園芸部はある。
今日も花に水をやりにやってきた。一応当番になっているはずなのだが、この暑さにすっかり土も乾いていた。近くのひまわりも太陽に少しうつむいている。



「あっ、ひまわりちゃん。」

「幸村先輩・・・・。」



現れたのは幸村先輩。男子テニス部の部長さんで、数少ない園芸部の幽霊部員でもある。しかし幽霊部員と言っているのは先輩本人だけで、実際の所は結構な頻度で花壇に来ている。
そんな先輩は麦わら帽子を被り、タオルを首にかけ、軍手をしてじょうろとスコップを二つ持っていた。いつもの先輩とは違う姿にちょっと驚く。



「どうしたの?」

「いや、幸村先輩でもそういう恰好するんだなーって思って。」

「俺だってするさ。だって暑いし。」



確かにこの炎天下の中帽子一つかぶってこないで軍手だけしている私の方がどうにかしていた。確かに暑い。
幸村先輩はタオルで汗を拭うと、スコップを私に差し出した。


「水はもう汲んであるよ。」

「ありがとうございます。」

「肥料類は俺がさっき運んでおいたから。」

「あ、すみません。」

「今日は君だけ?」

「はい。」

「・・・・そっか。」



先輩はそう言うと何故か嬉しそうに微笑んだ。そして麦わら帽子を脱ぐと、私の頭に乗せた。



「これ・・・・。」

「被ってなよ。」

「え、でも先輩は?」

「俺は鍛えてるから大丈夫。」



幸村先輩はそう言いながら花壇に水をやり始めた。
最初何もなかったこの花壇も徐々に花が増えていった。今は大きなひまわりが主役となっている。



「ずいぶん大きくなったね。」

「そうですね。私の身長と同じぐらいかな?」

「ははは、そうだね。」



先輩が少しうつむいたひまわりの花に触れる。それだけで映画のワンシーンのようだ。
秘かに想いを寄せているけど、高嶺の花とはまさにこういう事を言うんだろうな。
思わず見とれていると、それに気づいたのか先輩がくすりと笑った。



「何?」

「いえ、その、幸村先輩は花が似合うなーと思って・・・・。」

「ふふっ、ありがとう。」



先輩は綺麗に笑うと、水遣りを再開させた。乾いていた地面が水を含んで元気になっていくようだ。
きっとこのひまわりも水を一杯吸って太陽をたくさん浴びればきっと元気になるはずだ。


「ねぇ、ひまわりちゃん。」

「何ですか?」

「園芸部以外に夏の予定ってないの?」



水をやり終えじょうろを置いた先輩がそう私に尋ねた。



「得には・・・・。」

「友達と遊んだりとかしないの?」

「みんな出かけてるみたいなんです。」

「そっか。じゃぁ、この後何か予定ある?」

「この後ですか?ないです。」

「じゃぁさ、これから一緒に植物園に行かないかい?」

「・・・・・え?」

「デートしないか、って事。」



その言葉に私は思わず持っていたスコップを落とした。
そう言って笑った幸村先輩の笑顔は眩しい太陽のようだった。




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