今年も夏がやってきた。強い日差しは今年も砂浜に反射してより私の肌を攻撃しているみたいだった。



「ふてくされてるな。」

「誰が?」

「お前が。」



ダビデはそう言うと私の付けている浮き輪に腕を置いた。
海に入ると気持ちいいが、やっぱり日差しは痛い。泳げるダビデとは違って私は浮き輪に捕まりぷかぷか浮いていた。
幼なじみであるみんなでトレーニングと称して海に来たが、結局みんなそれぞれに遊んでいる。
浜を見ればサエさんと剣太郎、そしてハルちゃんがバシャバシャと水をかけ合っていた。



「バネさんが告白されてからずっとそんなだろ。」



海水に濡れて少しぺたーとした髪をそのままにしてダビデがそう言った。私は浮き輪に乗る逞しくなった腕をぺちぺち叩く。



「別に、ずっとじゃ、ないもん。」

「そんなに好きなら告白すれば、いいてて。」



ぺちぺち叩いていた手で思いっきりダビデの腕をつねってやった。ダビデは腕をうきわから離すと眉間に皺を寄せる。
・・・・私だってそれができれば苦労してない。ダビデが言うとおり、私はハルちゃんが好きだ。



「何するんだ。」

「ムカついた、ダビデのくせにー。」

「・・・おまえがそうなら、俺にだって考えがある。」



ダビデはいつもよりもムスっとした顔でそう言うと、眉を釣り上げた。



「バネさーん!」

「ちょっと、ダビデ!」



その声にクルリとこちらを向いたハルちゃんにダビデは無言で手招きをする。そんなこいつを睨んでいる私をよそに、ダビデはまた私の方を向いた。



「ひまわり、バンザイ。」

「は?」

「いいから、こう、バンザイ。」



ダビデはそう言って手を上にあげた。私は意味が分からないままバンザイをすると、うきわを強引にはぎ取られた。



「ちょ、ダビデぇ!」

「大丈夫大丈夫。」



ちっとも大丈夫じゃない!浮力を失った私は足も付かないこの海の中に放り出されたのだから。案の定私はバランスを崩して、一気に肩まで海に浸かってしまった。ダビデ、私が泳げないの知ってるだろ!というか、お前泳げるだろ!うきわいらないだろ!!とダビデに向かって怒鳴ろうとした時、私の体が急に浮いた。



「大丈夫か?」



ぽかんとした私が見たのは、いつもよりも距離が近いハルちゃんの顔だった。
というか気が付いた。あれ、これって、もしかしなくても私、お姫様抱っこなるものされてる?



「何やってんだ、お前ら。」

「だ、ダビデが私の浮き輪を!」

「このうきわはお前のじゃなくて部活の。」

「そう、だけど!」

「じゃぁバネさん、後はよろしく。」



ダビデはそう言うと浮き輪を腕にしてサエさんや剣太郎の元に行ってしまった。
ちくしょう、後で覚えておけよダビデ・・・・・。



「で、何がよろしくなんだ?」

「私に聞く!?というか、そろそろ降ろしてください!」



ハルちゃんは当たり前だけど水着姿。私を軽々と持ち上げている逞しい腕はもう私が知っているハルちゃんじゃないみたいだ。そんな事を考えると急に恥ずかしくなってきて顔を背けると、その腕から一刻も早く抜けようと試みる。



「おいひまわり、お前、急に暴れるな!!」

「暴れたくもなるでしょう!?」

「何で?」

「何でって・・・・・・。」

「それにお前泳げないんだから、うきわなしじゃ溺れるだろ。」

「そう、だけど・・・・・降ろして!!」

「はぁー、分かったよ。」



ハルちゃんはそう言うと本当に腕を離した。私はそのまままた海と対面した。
しかも今度は口に水が入ってきた。
しばらくするとまた私の体が急に浮いた。咄嗟に腕を伸ばすと、さっきよりももっと近いハルちゃんの顔があった。



「あはははは、お前、本当にまだ泳げねぇんだな。」

「・・・・悪かったね、ずっと泳げてなくて。」

「別に悪いって事はねぇけどよ。あははは。」

「もう、笑いすぎ!!」

「悪い悪い。」



豪快に笑うハルちゃんを睨みつける。
小学校からハルちゃんに何度も水泳を教えて貰ったが、まったく泳げていない。
でもあの頃よりはちょっと泳げるようにはなっている、はず。多分。
そしてあの頃よりも子供じゃなくなったのに相変わらずハルちゃんにはあの頃と一緒の扱い方をされている気がする。
そんな事を考えて無性に腹が立って、私はハルちゃんの首に腕を回すと思いっきり抱き着いてやった。



「お、お前、どうした?いきなり?」

「・・・・仕方がないからハルちゃんをうきわ替わりにする。」



ハルちゃんは私の言葉に一瞬黙ったが、しばらくしてまた笑い出した。
そして私を抱え直すと、海に浸かった。



「レンタル料高く付くぞ?」

「アイス一本ね。」

「おいおいそれだけかよ?・・・・まぁ、いいか。」



いつもよりも近い距離にドキドキするけど、海に入ればそれも少しまぎれるようだった。ダビデがニヤニヤしながらこっちを見ていたけどそれは無視した。
「行くぞー」と言って私を抱えて海の中を進み始めたハルちゃん。そんな私の好きな人は夏の匂いがした。




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