「財前〜。」
気の抜けた声で名前を呼ばれれば、そこには制服姿のひまわり先輩が。
俺は持っていたタオルを肩にかけると近づいてきた先輩にでこピンをした。
「いたっ!何するんだよ!」
「ひまわり先輩こそ、何しに来たんや。」
「敬語、敬語忘れてるよ!」
先輩はこんなに炎天下でこんなに暑いのに相変わらず元気やった。
どんよりとした眼差しでそんな先輩を見ると背中をばしばし叩かれる。
「どう頑張ってる?新部長!」
「まぁ。」
「まぁって・・・・・相変わらずだね。」
「その言葉、バットで打ってそのまま先輩に返しますわ。」
「じゃあ私はそれをさらにホームランする。」
「アホ、ホームランしてどないするんすか。」
先輩はずっと俺らのマネージャーやったけど、この夏他の先輩らと一緒に部活を引退。こんなアホな所も笑顔が可愛ええのも、久しぶりやった。
「寂しがってるかなー、と思って遊びにきたのに。つまんないなぁ。」
「それは先輩の方やろ。」
「・・・・・うん、そうかも。」
先輩はそう言うとくるりと後ろを向く。青空を背景にしたひまわり先輩の背中が小さく見えた。
「寂しいなぁ。」
「先輩。」
「夏、終わっちゃったなぁ。」
呟くようにそう言ってまたこっちを見た先輩は泣いてるみたいやった。
全国大会は準決勝敗退。先輩らの夏が、終わったんやと思った。
泣きそうに笑う先輩に今度は俺が近づいた。
「先輩だけじゃないっす。」
「え?」
「まだまだこんなに暑いのに、夏が終わるわけないやないっすか。」
俺はそう言うとまた先輩のおでこにでこピンをした。
「いたぁ!財前のでこピンは地味に痛いんだよ!」
「映画、行きましょう。」
「へ?」
「先輩が見たがってた映画のチケット貰ろたんです。」
「マジか!」
「マジっすわ。」
「行く!」
そう言った先輩はいつものひまわり先輩やった。笑顔の先輩を見てなんやほっとしたのは俺も寂しいかったのかもしれへん。そんな事絶対に先輩には言わへんけど。
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