「待った。」



そんな私をヒカル君がまた引っ張った。今度は私の腕を掴んで。
振り返れば、予想以上に近い距離にびっくりした。



「・・・悪い、そう言うつもりじゃなかった。」

「・・・・・。」

「誕生日だし、お前が喜んでるの見れればいいと思ってた。」



ヒカル君はそう言うと掴んでいた手を離した。そして私の右手を包む。
大きな手は私が大好きな手だった。



「でも今多分俺、お前よりも楽しんでる。」



そう呟いて優しく笑ったヒカル君に、さっきの不安なんてすっかりなくなった。
代わりに嬉しくなってその手を握り返せば、ヒカル君も握り返してくれた。



「よかった。」

「あ、だったらこうするか?」

「何?」

「誕生日プレゼントに俺をあげる。」

「・・・・・・・。」



その言葉に驚いて瞬きを数回すると、ヒカル君が事の重大さに気づいたのか急に顔を赤くしてうろたえ始めた。



「いや、その、別に変な意味じゃなくてだな・・・・。」

「う、うん・・・・。」

「その、なんて言うか、だな・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「待った、ちょっと整理する・・・・・。」



ヒカル君はそう言うと顔を押さえるとおもいっきり顔をそむけた。そして頭をぶんぶんと振る。
耳まで赤くなっているそんなヒカル君を見て、恥ずかしさよりもなんだか可笑しさがこみ上げてきて少し笑ってしまった。



「つまり、今からお前がしてほしい事を俺がやる。」

「・・・・・・。」



そう呟くヒカル君の顔は真っ赤だった。しかもこんなヒカル君の姿を見たのは始めてかもしれない。男子にこういうのも変な感じだけど、可愛い。すごい可愛い。
私はそんな彼を見ながら吹き出してしまった。



「わ、笑うな。」

「ご、ごめんね・・・・。」

「・・・・サエさんの言葉がそのまま出てきたのが悪かった。」

「佐伯先輩の言葉?」

「あぁ、き、気にするな。」



ヒカル君はそう言うと長く息を吐いた。そして頭をかくと、まだ少し赤い顔で私に問いかける。



「で、お前は俺に何をしてほしい?」

「え?そのままでいいよ。」

「遠慮するな。」

「え、うーん・・・・・じゃぁ・・・。」



私はそう言うと、ヒカル君に屈むようにジェスチャーをした。伝わったのか、ヒカル君が屈むと彼の耳元で要望を告げた。



「・・・・・・それでいいのか?」

「うん・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」



ヒカル君は私の顔をじっと見つめると、姿勢を直した。
そして一瞬視線を外してから、また笑顔で私を見た。



「それなら、俺でもできるな。」



私はそれを聞くと、握っている手に力を込めた。
また私の横を小さな子が通り過ぎて行った。私はヒカル君を見つめると、笑う。



「もうちょっとクラゲ見てていい?」

「あぁ。」



握り返された手の温もりで、私はまた少し泣きそうになった。



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