進むと今度は小さい水槽が並んでいた。
見れば小さいクラゲ。ふわふわと浮かぶように泳いでいる。
「小さい、可愛い。」
紫がかったライトが当てられて、クラゲはうっすらとその色だった。並ぶ小さな水槽には種類の違うクラゲがいる。
立ち止まって見ていた私の横を数人の小さい子が通り過ぎた。興味ないのかな、クラゲ・・・・・。
そう思っていると、不意に引っ張られるのを感じた。見れば、隣の天根君が私のバックのさげ紐を持って引っ張っていた。
「ぶつかる。」
「へっ?」
彼がそう言うと、私の前をまた小さい子が駆け抜けていった。ぎりぎりで避けたみたいで、さっきのままでいたら駆け抜けていった子とぶつかっていたかもしれない。
「ありがとう。」
「気にするな。」
天根君・・・・ヒカル君はそう言うと紐から手を離すと、次の水槽に目を向けた。
そんな横顔をまた見れば、今度は私が彼を引っ張る番だった。
「・・・・・どうした?」
「・・・・・・・あの、ね・・・。」
ヒカル君が驚いたように私を見つめてそう言った。
私はヒカル君の服の裾を掴みながら、少し俯く。
「・・・・・ヒカル君は、楽しんでる?」
さっきの不安が大きなって、ついに口から出てしまった。
ここに連れてきてくれて、アイスを奢ってくれて、名前で呼んでくれて・・・・・誕生日だからって私だけがものすごく楽しんでいる気がする。
もともとヒカル君はあんまり感情を表に出さない人だと分かってはいるんだけど・・・・・・私が誕生日だからって無理しているのは、嫌だった。
ヒカル君は声には出さなかったが、目を丸くさせた。そしてしばらくすると私から視線を外す。
「・・・お前は?」
「私?」
「そう、雪は?」
「私は・・・・楽しいよ、すごく。」
「そうか、それなら・・・・いい。」
私は掴んだままだったヒカル君の服の裾を離した。私は顔を上げると、思い切って彼に一歩近づいた。
「そ、それって、私が楽しかったらいい、って事?」
「あっ、あぁ。」
「・・・・嫌だ。」
「え?」
「そういうの・・・・・私は嫌だ。」
私はヒカル君に向かってそう言うと、彼の横を通って歩き出した。
・・・あぁ、やっぱり言うんじゃなかった。折角ヒカル君が私のためを思って連れてきてくれたのに、それを私が台無しにしてしまった。
なんだか少し・・・・泣きそうだ。
今の私は小さい子と一緒で、綺麗なクラゲを横目にしながら足早に進んだ。
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