サンゴ礁の海を再現した大きな水槽には、人が集まっていた。そこには色とりどりの魚や、大きな群れをなす魚や、サメや海ガメなどがゆうゆうと泳いでいた。
カップルや小さな子供が大きな水槽を見上げている。まぁ、私もその中の1人でもあるんだけど。
そんな私の横に小さい女の子がやってきたので、私はその場から離れた。そして壁際のソファーに座っていた天根君の元に向かう。
「もういいのか?」
「ごめんね、天根君。待たせちゃって。」
「・・・・・。」
私がそう言うと、天根君は眉を下げた。
それを見てはっと気づいた。どうやら彼は私が名前で呼ばなかったのが気に入らなかったらしい。
「じゃなかった・・・・ひ、ヒカル君。」
私が急いで言い直すと、天根君・・・ヒカル君は満足したのか私の頭を撫でた。
さっきまで赤かった彼の顔もすっかり今はいつもの表情で、さっきのあれは嘘だったんじゃないかと思ってしまう。
「大丈夫。本当にもういいのか?」
「うん。」
そう言ってヒカル君の隣に座る。
大きな全体を見れるここは水槽の近くよりも人が少なくなかった。
「イルカの水槽とはまた違ってすごく綺麗。」
「そうだな。」
水槽を見つめるヒカル君は凄くかっこよかった。
いつもと変わらない表情。でもその横顔を見つめながら、ふと不安がよぎる。そのせいで無意識のうちにスカートの裾を握りしめていた。
「何?」
「え?」
我に返ればさっきまで水槽を見つめていたヒカル君がいつの間にか私の方を向いていた。
どうやらヒカル君を見つめていたらしく、私は急いで視線を外した。
「なっ、何でもない・・・・。」
「・・・・・。」
ヒカル君はそんな私を黙って見つめると、ゆっくりと立ち上がった。
やっぱり表情は変わらない。
「次、行くか。」
「あっ、うん・・・。」
私も急いで立ち上がると、スカートの裾を握っていた手を解いた。
そしてその背中を追った。
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