「ねぇ、天根君。」
「何だ?」
「・・・・変な事聞いていい?」
アイスもあらかた食べ終え、残ったコーンをばりばり食べていると瀬名がそう言った。
「変な事?・・・・スリーサイズは秘密だ。」
「そうじゃなくて。」
そう言って苦笑い。瀬名は意外とツッコミの才能があるのかもしれない。
「じゃぁ何?」
「天根君ってダビデって言われてるでしょ?絢ちゃんがミケランジェロのダビデ像に似てるからダビデってあだ名が付いたって聞いたんだけど、本当?」
「あぁ。」
「誰が最初に付けたの?テニス部の人たち?」
「多分そう・・・・誰だったかは覚えてない。」
「そうなんだ・・・・・。」
瀬名はそう言うとカップに残ったアイスをたいらげた。
俺はコーンを食べ終えると包んでいた紙を片手で丸めて、俺の気になっている事を聞いてみた。
「お前は・・・。」
「ん?」
「お前は俺の事苗字で呼ぶんだな。」
「・・・・・・・そう、だね。あ、もしかして嫌、だった?」
「嫌、ではない。」
「そっか・・・・。」
コツンと小さい音を立てて瀬名の持っていたカップが机の上に置かれた。
俺はそれを見つめながら、ここに来る前までに考えていた事を思い出した。
「テニス部は上下関係が薄いからな。」
「仲良しだもんね。」
「あぁ。」
「・・・・・・・・。」
「天根君?」
ふいにサエさんに言われた言葉が浮かんだ。しかしいざ口にしようとすると、言葉が浮かんでこなかった。
そんな俺を瀬名が心配そうに見つめていた。
「お前は、坂本には名前で呼ばれてたな。」
「うん。後クラスの子とかにも名前で呼ばれてるよ。」
「男子にもか?」
「うーん、男子は少ないかもしれない。それに、いきなり名前で呼ばれたらびっくりするしね。」
「じゃぁ、俺が・・・・・。」
「ん?」
気づかれないように息を吐くと、腹をくくる。
「俺がお前の事名前で呼んだら、びっくりするか?」
「・・・・・・・・。」
小さい声で俺がそう言うと、瀬名の瞳が大きくそして丸くなった、そして頬が赤くなった。
あぁ、きっと俺も似たような顔になっているに違いない。
「び、びっくりはすると思うけど・・・。」
「そ、そうか・・・。」
消えそうな声で、でも確かにそう言った瀬名は少しうつむいた。微妙な答えだったけど、それはOKしているように見えた。
「なら、その・・・・・いいか?」
「・・・・・うん。」
「なら俺もの事も、名前で呼んで貰っていい。」
「ダビデ君?」
「じゃなくて・・・・・。」
「・・・・ヒカル、君。」
名前を呼ばれて、ずっと握っていた今はゴミになってしまっている紙それが、俺の手から離れて机の上に落ちた。
名前を呼ばれただけで舞い上がれる俺はなんて単純なんだろう。それでも今はただ嬉しかった。
「・・・ありがとう、雪。」
自然と出たその言葉に、今度は雪が持っていたスプーンを落とす番だった。
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