「・・・昔ね。」



呟くように言った瀬名は水槽を見上げながら言葉を続ける。



「海に潜ったら人魚姫になれるんじゃないかって思ってたんだ。」

「・・・・・。」

「・・・・あー、昔ね。幼稚園ぐらいまでだよ!今は違うよ!」



何も言っていないのに瀬名はそう言うと、水槽から手を離して顔の前でぶんぶんと振った。
それを見てから俺も手を付くと水槽を見上げた。



「・・・・俺も。」

「へ?」

「昔、人魚姫いると思って潜って探した事あった。」

「天根君も?」

「そう。」



俺も幼稚園ぐらいの頃人魚姫を探しに行った事があった。結局見つからなくて後でバネさんにからかわれたんだ。
瀬名はくすりと笑う。



「なりたかったな、人魚姫。」

「ならなくていい。」

「どうして?」

「王子と会う時話せないから。それじゃあ俺が寂しい。」

「さ、寂しいんだ。」

「なるなら他のになって。」

「例えば?」

「白雪姫とか。」

「王子様に会う前に眠っちゃうよ。」

「大丈夫、その時は俺のキスとダジャレで目覚めさせるから。」



瀬名の方を向くと、彼女は大きな目を丸くさせて俺を見つめた。
そしてまた水槽を見つめると嬉しそうに笑った。



「ダジャレ付きなんだ。」

「当然。」



半分冗談で、半分本気だった。人魚姫よりも白雪姫の方が今はよかった。
7人の小人だけに・・・・奇数のキス・・・後でネタ帳に追加しておこう。
そんな事を考えながら瀬名を見れば薄暗いここでも分かるぐらい顔が赤かった。でも見ないふりをして俺もまた水槽を見上げた。きっと俺も同じような顔をしているに違いないから。



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