辞書を借りに隣のクラスに向かえば、チョコが休みだと知った。何でも風邪らしい。辞書を借りた東堂から辞書と一緒にプリントを渡された。
「これは?」
「チョコの分のプリント、こっちはチョコの家の地図。俺が行こうかなと思って書いてもらったんだ。」
「・・・・・。」
「というわけだから、俺の変わりに宜しくな。」
・・・・というわけで俺がチョコの家に行く事になった。(サエさんに言ったら部活休みにしてくれた。)
地図通りに行くと到着。どうやらここがチョコの家みたいだ。玄関前に立ちインターホンに手を伸ばす。
「わんわんっ!」
「ん?」
声がした方を見れば庭の方から小さい犬がこちらを覗いていた。
確かあいつはチョコの飼っている犬だ。名前は確か・・・・。
「豆くろ。」
「わん!」
豆くろに近づけば小さいながらも尻尾を振っている。しゃがんでその頭を撫でると、近くの窓がカラカラと開いた。
「どうしたの、豆くろ・・・・・・。」
視線を上げれば、そこにはチョコの姿があった。
「ごめんね、わざわざ来てもらって。」
「いや・・・・。」
あれから家に上がらせてもらうと早速プリントをチョコに渡す。足を拭いて離した豆くろは部屋の中を駆け回る。
フリルのついたパジャマの上にカーディガンを羽織っただけのチョコは何時もよりも顔が赤かった。
親は仕事で弟は部活でまだ帰ってきてないらしい。ふらふらとした足取りで俺に座るように促す。
「・・・大丈夫か?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
そう言って俺に笑いかけた。そしてそのまま台所に向かったが、途中でよろける。
急いでその体を支えればとろんとした瞳が俺を見つめた。
「ありがとう、天根君。」
「無理するな。」
おでこに手を当てれば熱い。熱が上がってるのだろう。俺はチョコの体を抱き上げる。女子はこんなに軽いのかっびっくりしたが、抵抗もせず俺の肩にぐったりと体をよせるチョコに自分の部屋がどこか聞く。ためらいながらも答えたチョコの許可を得て二階に上がる。そんな俺の後ろから付いてきた豆くろも抱き上げる。
そしてチョコの部屋に入りベッドに下ろした。
許可は得たけど綺麗なチョコの部屋に心臓が何時もより早くなっているのに気が付く。
そして少し荒い息でうっすらと瞳を開けたチョコに、不謹慎にもドキリとする。
「・・・・薬は?」
「さっき、飲んだ。」
「なら、もう少しで効いてくるはずだ。」
「うん・・・。」
近くのタオルを拝借すると、それを濡らすためにと台所に向かおうと立ち上がる。
しかしチョコによってそれを阻止された。見れば俺の制服の裾をチョコが掴んでいた。
「天根君、あのね・・・・・。」
「何だ?」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・、冷凍庫に、入ってるの。」
「ん?」
「・・・チョコ・・・・。」
少し苦しそうに言ったチョコの言葉で我に返った。
そうだ、今日はバレンタインだった。道理で朝から甘いものを貰えるはずだ。
掴んでいた手を取ると布団を掛けてやった。
「もう、大丈夫だから、帰っていいよ。」
「あぁ、お前が寝たらな。」
「・・・・他の人にもチョコ作ったんだけど、天根君に、最初にあげ、られて、よかった。」
そう言いながら笑ったチョコの瞳が段々下がってきて、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
俺は唇を緩ませながらチョコの頭を撫でた。そして起きないようにと願いながら顔を近づけて唇にキスをした。
「わん。」
「むっ。」
吠える豆くろの足下に冷えピタが。それに手を伸ばしてチョコのおでこにそれを貼る。そして豆くろの頭を撫でるとまた嬉しそうに尻尾を振る。
「でかしたぞ、豆くろ。」
「わん。」
「でもさっきのは俺とお前だけの秘密だ。」
・・・・眠り姫が起きるのはまだ先でいいのだから。
そんな俺を豆くろが不思議そうに見つめていた。