今日は2月14日。今日はバレンタインデーでもあり、そして俺の誕生日でもあったりする。
朝から沢山のお祝いの言葉やチョコやプレゼントを貰った。嬉しい。嬉しいけど・・・・・俺が本当に欲しいと思っている人からはまだ貰ってはいない。
小さく息を付くとポケットの中の携帯が震えた。ディスプレイを見れば宍戸さんの文字。メールだった。
・・・・・・・・どうやら今年もお祝いの言葉もチョコもプレゼントも直接は貰えないみたいだ、と送られてきたメールを見て思った。
宍戸さんのクラスに足を運べば、宍戸さんの姿を発見。その前にはチョコ先輩がいる。後ろ姿でだって分かる。話をしているみたいだ。
声をかけようか悩み立ち止まる。
「何でだよ?付き合ってんだから渡すぐらいできんだろ。」
「・・・・恥ずかしいじゃん!!」
「今更だろ。」
「無理無理!今までできなかったのに、今年いきなりできると思う?無理でしょ!」
「努力ぐらいしろ、ったく。」
宍戸さんはそう言って頭をかくと、声をかけようか迷ってた俺に気づいたみたいだった。
俺が軽く頭を下げると、宍戸さんに向かってチョコ先輩も頭を下げた。
「お願い宍戸、今度何か奢るから!この通り!!」
「・・・・だってよ、長太郎。どうすんだ?」
宍戸さんが急に俺に向けて声をかけた。少し驚いているとくるりとチョコ先輩が振り向いた。大きな目を丸くして俺を見つめる。
俺はそんな先輩に近づく。
「・・・・俺としては、今年こそチョコ先輩から直接チョコを貰いたいです。」
「ちょっ、長太郎君、何でここに!!??」
「今年もどうせこんな事だろうと思って、俺が呼んでおいたんだよ。」
「こんにちは、チョコ先輩。」
俺が挨拶をすると先輩は少し顔を赤くさせた。今日も可愛いなぁ。
宍戸さんはそんな俺と先輩を見ながら腕を組んだ。
「おい、チョコ。受け取る奴がこう言ってんだ、どうすんだ?」
「・・・・・・・・・。」
そしてそう宍戸さんが言うと、チョコ先輩は少し下を向いて目を泳がせた。
俺は先輩から宍戸さんに視線を向ける。
「・・・宍戸さん、いいですよ。受け取ります。」
「えっ。」
「・・・いいのか?」
「はい。俺はチョコ先輩から貰えるだけで嬉しいですから。」
「長太郎君・・・・。」
チョコ先輩をこれ以上困らせたくなかった。プレゼントもチョコも先輩から貰えればそれでいい。でも・・・・。
俺は宍戸さんから教わった奥の手を使うことにした。
「でも・・・・・お祝いの言葉だけは、先輩から直接聞きたいです。」
「・・・・・・・・。」
「ダメ、ですか?」
前にチョコ先輩の事を相談したら「あいつは鈍いから多少強引にでもやらなきゃダメだ」と言われたのを思い出した。卑怯かもしれない、ちょっと気が引けたが先輩は顔をぶんぶんと横にふった。
「だ、ダメじゃないです!!そんな事なら、喜んで!!!・・・・あっ。」
「あーぁ、言っちまったな。」
「・・・・・・・・。」
宍戸さんが面白そうにそう言うと俺に笑いかけた。どうやら作戦が成功したいだった。
顔を赤くしている先輩に少し申し訳なく思ったが、うまく転がったので嬉しさの方が大きかった。
「今じゃなくてもいいです。チョコ先輩の心が決まったらでいいので。」
「い、今言う・・・・。」
「やればできるじゃねーか。」
「うるさい宍戸!それから後ろ向いてて。」
「はぁ?何で?」
「いいから!!!」
「・・・・分かったよ、しゃーねーな。これでいいか?」
宍戸さんを睨みながらチョコ先輩がそう言うので、宍戸さんはしぶしぶ背中を向けた。
先輩はそれを確認すると、少し俺に近づいた。
「長太郎君は屈んで。」
「屈むんですか?」
「いいから。」
「・・・・はい、これでいいですか?」
俺がチョコ先輩の言われるままに身を屈めると、先輩は背伸びをした。そして俺の肩に手を添えるとそのまま・・・・・・・俺の頬にキスをした。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「ハッピーバースデーとハッピーバレンタイン。」
照れたように、でもはっきりとそう言ったチョコ先輩は俺の大好きな笑顔だった。
それを見て一気に顔に熱が集まる。
「おい、いつまでこっち向いてればいいんだー?」
「ちょ、長太郎君に聞いて!それじゃ!!!」
しびれを切らしたのか宍戸さんが背中を向けたままそう言う。チョコ先輩はそう答えると、俺の頭をくしゃっと撫でて足早に駆けていってしまった。
取り残された俺は・・・・・・・緩む口を隠すように顔を片手で覆う。
「・・・・・おい、長太郎。」
「すっ、すみません宍戸さん。もうしばらくそのままでお願いします・・・。」
・・・・・・こんな真っ赤な情けない顔は、激ダサすぎる。