ちまたでは逆チョコなるものが流行っているらしい。
不二に言われるがままチョコを買いにいけば、そこは女子しかいなかった。それを見て目を細めると「頑張って、手塚。」と言って不二に背中を押された。
店の中に入ると痛いほど視線を浴びる。小さく息を吐きながら並ぶチョコを見つめる。種類が多すぎて少し困惑していると、肩を叩かれた。
振り返れば不二と同じクラスのチョコが俺を見上げている。



「手塚じゃん。」

「チョコ・・・・。」

「まさかこんな所で会うとは。」

「・・・・・。」



チョコはかごを持ち、俺の前にあったチョコをかごに入れる。



「何してたの?」

「それは・・・。」

「あっ、もしかして、もしかする?」

「何がだ?」

「手塚、いつもいっぱい貰うチョコは自作自演だったって事?!」

「・・・・何でそうなる。」



いつも突拍子もない事を言う奴だが、今日は特にだと思った。
チョコは軽く「ごめんごめん」と言うと俺の背中を叩いた。



「で、どうしたの?もしかしてチョコ買いにきたの?」

「あぁ。」

「えっ、手塚が、チョコを!?」



驚いたのか声を大きくしたチョコにより一層視線が刺さる。



「手塚チョコあげるの?」

「そのつもりだ。」

「えっ、誰?誰?」



目を輝かせて聞いてくるチョコに店の外にいる不二に視線を泳がせれば、不二は面白そうに笑っていた。チョコはそんな不二には気づいていない。
眼鏡を上げると、チョコは諦めたようにまた一つチョコをかごに入れる。



「まぁいいよ、手塚が言いたくないならさ。」

「すまない・・・。」

「で、どんなチョコにするの?」

「それを迷っていた。こう種類が多いとな・・・・。」

「そっか。」



チョコはそう言うと腕を組んだ。
そして俺以上に悩み出すとチョコが並べられているショーケースを見つめる。



「うーん、じゃあそのあげる子の雰囲気にあったものにすれば?」

「なる程。」

「で、その子ってどんな子なの?」



チョコはそう言うとまた視線を俺に向ける。
俺はまた視線を逸らすと色とりどりのチョコに向けた。



「そうだな・・・・・明るくて、」

「うん。」

「活発で、」

「うんうん。」

「後輩の面倒見もよくて、」

「って事は一年じゃない?」

「おっちょこちょいだが何をやるにも一生懸命で、」

「ほー。」

「笑顔が・・・・可愛い奴だ。」

「ふーん。」



恥ずかしくないといったら嘘になるが俺はそれを誤魔化すためにまた眼鏡を押し上げる。
チョコはそんな俺を見るとふわりと笑った。



「手塚、その子の事本当に好きなんだね。」



そう言われてどんな顔をしたらいいのかも、どう言葉を返せばいいか分からない。
俺はただ「あぁ。」とだけ呟いた。



「じゃあ、これなんかどう?色も形も可愛いよ。」

「お前は・・・。」

「ん?」

「お前はこれを貰ったら、嬉しいか?」

「うん。」



俺がチョコに薦められたらチョコの箱を手に取ると、チョコはまた俺の背中を叩いた。



「手塚から貰えるその子は幸せ者だね。」



チョコはそう言うと足早に去っていってしまった。そんな背中を見送ると、店員がやってきて「お決まりですか」?と聞いてくる。
俺は手早くチョコの会計をすますと、店の外に出る。待っていた不二が近寄ってきてぶら下げた紙袋を見て笑った。



「お帰り、その様子だとチョコちゃんにチョコは渡せなかったみたいだね。」

「・・・・・。」

「さっきチョコちゃんに会っていろいろ聞かれたから。勿論、答えなかったけどね。」



不二はそう言うとクスリと笑った。どうやら俺が誰にチョコをあげるのかを不二に聞いたらしい。
反対に俺は紙袋の中の箱を見つめてため息をついた。



「とりあえず明日渡してみたら?」

「あぁ。」

「まぁ頑張って、手塚。」



不二はそう言うと歩きだした。
あんな事をチョコに言ったが、明日チョコにこれを渡したらどうなるのか。
柄にもなくそんな事を考えながら俺も歩きだした。


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