(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)意味が分からない。本当に意味分からない。
「あ、遅かったね。」
「なに、してんの・・・・。」
「クッキー食べてる。」
笑顔でそう言った佐伯はパリパリとクッキーを食べ続ける。そのクッキーは私がホワイトデーに貰ったものだった。勿論サエ達からのでもクラスの友達からでもない、よく行くお店の店員さんから貰ったものだった。
今年は部活で逆チョコを計画してたのを知っていたからあえて部の誰にもチョコは渡さなかった。なのでよく行くお店の格好いいお兄さんにチョコをあげた。そうしたら今日の朝お兄さんがわざわざ学校までやってきてクッキーをくれたのだ。そのクッキーをなぜか私より先に私の許可なくサエが食べている。
「それ、私が貰ったクッキー!」
「うん、知ってる。朝見かけたから。」
私が部室に来て用事がありこの場を離れたのは五分ぐらい。クッキーを鞄の中じゃなくて机の上に出しておいたのが間違いだった。
「何で知ってて食べてるの!?」
「たいして美味しくないよ、これ。」
「そういう問題じゃない!」
言い合いながらもサエはクッキーを食べ続けていて、あっという間に最後の一枚になってしまっていた。
「クッキー食べたいなら、さっき私があげたでしょ!」
「それこそそう言う問題じゃないんじゃ・・・。」
「ダビデは黙ってて!!」
「う、うぃ・・・。」
帰ろうとしていて口出ししてきたダビデを睨むように制す。ダビデはハラハラした様子でそう言うと足早に部室から去っていった。
そんな私に樹っちゃんがため息をつきながらやってきた。
「まぁまぁ、とりあえず落ち着くのね。」
「樹っちゃん!」
「今回は俺もサエが悪いと思うのね。」
「そうでしょそうでしょ!本当に信じらんない!」
「いくらなんでもやりすぎですよ、サエ。」
「・・・・。」
樹っちゃんがそう言うとサエはクッキーをたいらげた。全部食いやがった。
「・・・・分かった謝る、ごめん。」
「全部食べたくせに本当にわかってるの?」
「分かってるよ。」
「私があげたクッキーはどうしたの?」
「食べちゃった。」
「そんなにクッキー食べたかったの?」
「はいはい、2人ともそれぐらいにするのね。もう少しで最終下校時刻だから帰る用意して。」
手をたたいてそう言う樹っちゃんに納得がいかないまま立ちあがった。
空っぽになったクッキーの箱だけでも持って帰ろうとすると、サエが箱を取り上げた。
「お詫びにこれと同じの買ってくるよ。」
「たいしたことない言ってたのに?」
「じゃあ俺が手作りしてこようか?」
「佐伯さん、私怒ってるんですけど。」
「冗談だよ、でもクッキーは買ってくるから。」
サエはそう言うといつものように微笑んだ。その笑顔に起こる気も失せてしまった。本当に意味が分からない。
「サエの気もちょっとは分かってあげてほしいのね。」
「樹っちゃん何か言った?」
「何でも。ほら帰りますよ、2人とも。」
帰り道、ぐちぐち言う私にサエは相変わらず飄々と受け流していた。
後日本当に同じクッキーを買ってきたサエ。
格好いい店員さんと違う所はご丁寧にリボンが巻かれていた事と、付箋に小さく“ごめん”の文字があった事だった。
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