(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)

今日は10月31日。ハロウィンである。
勿論イベント好きの六角男テニはレギュラーも含めてハロウィンの仮装をしている。まぁ、私もそんな中の一人なんだけど。



「あっ、いたいた。」



樹っちゃん特製のパンプキンパイを食べていると、吸血鬼姿のサエがやってきた。無駄に仮装が似合っている。すれ違う女子生徒からの黄色い声にも手を振るサエが容易に想像できた。



「あ、それか樹っちゃんお手製のパンプキンパイって。」

「流石樹っちゃんだわ、美味しい。サエもいる?」

「貰おうかな。」




サエはそう言うと、私の隣に座った。
私がパイをお皿にのせてフォークと一緒にサエの前に置くと、サエは嬉しそうに微笑んだ。



「他のみんなは?」

「他の部活にも顔出すって行っちゃったよ。」

「え、あの格好のままで?」

「うん、美味しい。本当流石樹っちゃん。」



パンプキンパイを頬張りながらそう言った。無駄に男前なサエをここまでふにゃふにゃな表情にさせるなんて、恐るべし樹っちゃんの腕前。



「そうだ、あれ見た?」

「あれ?」

「ダビデの顔。」

「あぁ、彼女ちゃんとのあれ、ね。」



私が部室に来たとき、やたら嬉しそうなダビデと赤い顔の彼女ちゃんに遭遇。面白そうにクスクス笑う亮と彼女ちゃんの手のひらに書かれたそれを見て何となく理解した。嬉しそうにダジャレを言うそんなダビデの背中を思いっきり叩いてやったのを思い出した。



「やっぱり可愛いよね、あの二人。」

「なんか意外。ダビデにも独占欲みたいのってあるんだね。」

「そりゃぁ男なら誰だって独占欲の一つや二つあるよ。」

「そんなもの?」

「そんなものだよ。勿論俺だってそうさ。」



サエはそう言うと私の方を向いた。



「可愛いアリスだね。」

「あ、ありがとう。サエも似合ってるよ、吸血鬼。」

「ありがとう、君に言われるのが一番嬉しい。」
「本当に?」

「本当だよ。他の奴に見せたくないぐらい。」



そう言って笑ったサエに思わずむせた。
そんな私の背中をさすりながらサエが紙コップに入ったお茶を差し出してきた。



「大丈夫?」

「大丈夫、じゃない。」

「ははっ、さっきのは半分冗談だよ。」



そう言ってまたパンプキンパイを頬張るサエ。
と言うことでは半分本気って事?私は紙コップのお茶を飲んだ。



「そうだ、トリックオアトリート。」

「ここに来るまでにお菓子はいっぱい貰ったんじゃないの?」

「でも君からまだ貰ってない。」



そう言ってパイをたいらげたサエは笑顔で私の前に手を出してきた。
私はポケットの中からマシュマロの入った袋を取り出してそんなサエの手の上にのせた。



「ありがとう、君は言わないの?」

「じゃあ、トリックオアトリート。」

「うん。」



私がそう言うと訳も分からずサエがうなづき、私の手からフォークをとパンプキンパイを奪い去った。



「ちょっと、サエ!」



何をしだすのかと思ったら私の最後の一口のパンプキンパイをフォークにのせサエが笑顔で私の口元に近づけてきた。まさかこれは・・・。



「ごめんよ、今お菓子持ってないんだ。だからこれで我慢して。」

「・・・・。」

「はい、あーん。」



一瞬何をされてるのか分からなかったが、ゆっくりと我に帰る。
しかしここでうろたえでもしたらそれこそサエの思うつぼなので、私は意を決して向けられたら最後の一口を頬張った。
そんなわたしの行動が予想外だったのか、サエが少し目を丸くする。



「うん、ごちそうさま。」

「・・・やられたなぁ。」



私の口からフォークを抜くと、サエはそれとお皿を机の上に戻した。そして頭をかくと少し赤い顔で笑う。



「はぁ、やっぱり君には叶わないなぁ。」

「な、何?」

「何でもないよ。」



サエはなにか呟くと、私のあげたマシュマロを一つ口に入れた。


12.11.1


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