(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)10月1日はサエの誕生日である。
そんなサエと私にはこの日必ず毎年やっている事があった。
「やっぱり今年もやるんだね。」
「勿論。」
そう言うサエの手には海水が入った小さいバケツとシャベルが。
楽しそうに、そして嬉しそうに砂浜にやってきた私達は波が来そうでこない場所にしゃがみこんだ。
サエと私の誕生日、私達は砂の城を作る事が恒例となっている。確か幼稚園ぐらいから始めたこれは中学に入ってからも続いていた。
夕日も落ちて当たりは暗くなっているのに、私達は何をやってるんだろう。
「あっ、ここ。ここにちょっと海水かけて。」
「あー・・・これぐらい?」
「ありがとう。」
サエの手にかかれば小さい砂の山もあっという間に綺麗なお城に大変身を遂げる。まるで魔法でも見ているみたいに。
今だってただの砂の山が早くもお城の一部に生まれ変わろうとしていた。
「本当に器用だよね。」
「そうかな?」
「うん、流石趣味だけのことはある。」
「趣味ではないけどね。」
そう言って笑うサエだが、手は動いたままだ。
中学三年生になってもお誕生日会は盛大に行われた。現に今はその帰りで離れた所にみんなからのプレゼントが入った紙袋も置いてある。しかし毎年のこれは必ずこのぐらいの時間になるとサエと私は砂の城を作っている気がする。
「今年はどんなのにしようか?」
「うーん。去年は高さに挑戦したんだっけ?」
「そうだったな。」
「去年の写真まだ持ってるよ私。」
「あれは頑張っただけいいのができたと思ってるよ。」
確か去年はみんなでものすごい高い砂の城を作ったんだった。(その後ちょっとした有名になったっけ)
「今年は普通に小さいの作ろう。」
「普通でいいのかい?」
「うん。オーソドックスな砂のお城にしよう。」
「逆に難しいな、それ。」
サエはそう言うとちょっと困ったように笑った。しかしそんな表情とは裏腹にあっという間に簡単な砂の城が完成した。殆どサエ作。私は海水をかけただけだ。
「ねぇ、飾りつけしていい?」
「いいよ、任せるよ。」
サエの言葉を聞くと私は足元に落ちている貝殻や流木を拾った。そして崩さないようにそっと砂の城に飾り付けていく。
「こうやってると小学校の時の夏休みの工作思い出すよね。」
「貝殻の貯金箱作ってたよね。」
「うん、紙粘土に張り付けてく感じに似てるこれ。」
「へー。」
サエは相づちを入れながらいつの間にか一緒に砂の城を飾り付けていた。私はそんなサエの隣に回り込むと、最後に持っていた貝殻をくっつけた。
「完成?」
「んー、もうちょっと。」
私はそう言うと砂の城の前を指でなぞる。
'Happy birthday 10/1'
「・・・誕生日おめでとう、サエ。」
「・・・ありがとう。」
薄暗い中でもはっきり分かるぐらい、サエは嬉しそうに笑っていた。多分私しか知らない、今日だけの表情だ。
「さぁて、名残惜しいけどそろそろ満潮だから早く逃げないとまたびしょ濡れだ。」
「あったね、びしょ濡れ。」
「でも、その前に。」
サエはそう言うとポケットからケータイを取り出した。そしてピロリーン、と写真を撮った。
「え、何で今年は写真?」
「だっていつも二人で作ってるけど、君が俺のために書いてくれたのは初めてだから。」
「そう、だっけ?」
「あぁ。城は波に消えちゃうけど、これならいつでも見れるだろ?」
サエはそう言うと立ち上がり、持っていたバケツの海水を捨てた。そして空になったバケツの中にシャベルを入れると、ケータイをポケットに戻した。
「なぁ。」
そして立ち上がった私にサエが呟くように口を開いて、私の前に小指を差し出した。
「来年の俺の誕生日の、約束。」
「・・・・私の誕生日も、でしょ?」
これも毎年恒例だった。砂の城を作り終えるとまた来年の約束をする。去年も帰り際にやったのを思い出した。
多分きっとこれからも私は毎年サエと砂の城を作るんだろうな。そんな事をぼんやりと考えながら今年もサエの小指に自分の小指を絡めた。
12.10.1
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